学生の企業の実態理解へのチャレンジ—ゼミでのPBL活動—

企業とのPBL活動
現在、文部科学省によって「アクティブラーニング」が推奨され、各大学においてもその実践としてPBL学習が積極的に行われている。PBL学習とは、問題解決型学習〔Project(またはProgram、Problem) Based Learning〕の略称で、知識を詰め込むだけの受け身な学習方法ではなく、学生が自ら問題を発見し、解決することを重視した能動的学習方法である。産業能率大学でも、授業の中で多くの先生に支持され取り入れている。

今回専門ゼミ活動にて、学内だけではなく企業に勤務している方との職場課題改善を目的としたPBL活動を、単なるオブザーブ等ではなく、互いにコラボレーションが起こるように実施してみたいと考えた。産業能率大学の学生は、経営学を学んでおり経営分析ツールなども知識を有している。実際に企業の方を前にして、学んできた知識をどこまで使えるのかチャレンジしてほしいし、企業を見る視点も、経営コンサルタント的な多角的な視点も持ってほしいという願いからである。実際に、経営コンサルタントや中小企業診断士になりたいと希望する学生も出てきたら面白いのではないかと考えた。

そのため、具体的に以下の手順で2019年より試行してみた。
1.企業の経営改善を行っている一般社団法人 日本経営イノベーション協会事務局に、「ドラマチック・マネジメント・アワード」への学生の出席および運営支援の了解を得る。
2.ゼミ学生はチームを作り、その年のドラマチック・マネジメント・アワードへの改善活動参加企業を選び、ホームページ等で企業研究を行なう。
3.毎月1回行われる改善会合に、学生が(Zoomおよび対面にて)出席し、討議グループに入りメンバーとして発言する。
4.職場での実践活動を、学生はSlack(コミュニケーションツール)にて進捗を確認し、発言を考える。
5.活動の終盤では、グループ討議だけの参加でなく、参加企業の中で学生から見た優れた企業の表彰を考え、表彰を行う。また、事務局とともに全体の表彰式の運営支援を行う。
6.ゼミ内で活動の振り返りを(都度)行う。
*学生は事前に、問題解決の考え方や、会合に出席するためのマナーをゼミで学習する。

産業能率大学は経営(マネジメント)に関する授業も多いことから、なんとかできるのではという期待半分、企業の方に迷惑をかけるのではないかという不安半分を感じながら実施した。
結果として、学生からは、「大学で学んだマネジメントや経営の知識が現実の話とリンクした」、「SWOT分析などの分析ツールが実際に使えることが分かった」など授業での学習面の予想された効果があった。また、「自分たちが一生懸命考えたことは意外と通用するのではという気持ちになった等の自信がついた」、「企業の方々の勤務先や自分の仕事へのロイヤリティの強さ、納期厳守の姿勢や率先垂範の態度など、今後の自身のキャリアを考える際、非常にインパクトになった」と報告してくれた。また、気になっていた企業側からも、オブザーブしていた経営者の方より「社員よりも痛いところをはっきり指摘する」や「考えなかった新しい視点がある」といった高評価をいただいた。メンバーの社員の方にも、グループに温かく迎えて頂き、生産性のある議論となり中には、学生の提案を自社のホームページに掲載していただいた企業もあった。
日本経営イノベーション協会の事務局の方も、「企業の方の提案や活動に対してのコメントなど学生の方が、素直で的を得た意見も多かった」と全体の講評でもお言葉を頂いた。
思わぬ成果
不安半分の試行は、以上のような結果で年度の活動は2月で終了するのであるが、参加した1期生達は、それ以上の思わぬ成果を生みだしてくれた。それは、積極的に参加した学生の就職活動においてである。現在、就職活動の選考は、SPI等の適正試験もあるが、やはりエントリーシートを提出しての面接が主流となっている。エントリーシートでは、①自己PR、②大学で力を入れたこと(通称ガクチカ)、③志望動機の3つは必ず記入するし、面接においてもその3点は必ず聴かれる項目となっている。

その“ガクチカ”に企業(社会人)とのPBL活動の内容を書き、面接で実例を挙げ、自信を持って具体的に語れた学生は、希望企業に早い内定をもらうことができたという点である。面接官も、企業の事業課題や職場課題に対しての関心は多いだろうし、質問もしやすいと思われる。そのヒアリング過程で求める論理的な思考力や、実行力など面接官も理解しやすいと考えられる。例えばある学生は、エントリーシート等において、社員が事業改善の為に悩む姿や、企画を実施するため他者を巻き込んでいく難しさといった社会人のリアルな姿を目の当たりにして学び、実践したこと等を記載し、面接での質問にも自信をもって答えられたようである。また、ある学生は、社会人とのグループワークを経験したことで、臆さずコミュニケーションを続ける力を培い、相手の課題が理解できるようになったことで自信に繋がり、自分の意見も言えるようになったと語ってくれた。
今年取り組もうとしていること
「ドラマチック・マネジメント・アワード」に参画する企業は、現状は中小企業が多い。中小企業の経営者は、個性的で魅力的な方が多い。また、実際に経営者に会うということは経営学を学んでいる学生にとってもとても魅力的なことである。そこで今年度は一歩進めて、学生に経営者と会って話ができる機会を創れないかと考えた。学生に会うことに理解がある経営者も多いのではないかということを考え、日本経営イノベーション協会のコンサルタントの方に、“学生からダイレクトに経営者にアポイントを取り、話す機会”はできないかという相談を持ち掛けたところ、すぐに賛同して頂いた。そして、経営学部の学生でもあるし、その会社の「ビジネスモデル」を学生なりに考えて、それを経営者にぶつけるという企画であれば、経営者も(面白がって)会ってくれるのではないかという提案を頂いた。

現在、その企画に理解のある経営者(企業)を紹介して頂き、学生がまずホームページや文献を調べ、経営者に会ってみたいと思う企業の「ビジネスモデル」を考えているところである。この後、学内での選考を経て、学生から直接アポイントを取り「ビジネスモデル」についての考えを経営者に提案する機会を持ちたいと考えている。そして、どのようなコラボレーションとなるのかを楽しみにしている。
所感
同協会の方から協力頂いた理由として伺ったのは、学生が企業に就職をし、3年以内に辞めることをできるだけなくしたい。途中でのリタイアは、企業・学生の両方とも損失となる場合が多い。少しでもリアリティ・ショックが和らぐように、就職サイトにあまり出ない「企業の実態」を知ってほしいということであった。学生を身近に指導している者にとってまさに、共感するところであった。私自身も、前職で採用に携わってきたが、応募数であるとか、内定者数、内定率等の会社に入社するまでの数字に追われていたような気がする。重要なのは、その後学生が定着して、何を学びどのように成長するか、また企業にどのように貢献するかである。

キャリア教育は、大学の授業でも多くの時間で学習されている。そのため学生は、希望する業種や会社概要については、以前に比べ多くを語れるようになってきた。ただ、もう一歩進めて、実際に働く企業の方々の実像を知らないと、自身の働く姿を具体的にイメージすることが難しいのではないかと思われる。学生自身がどのような価値を大事にし、企業や社会でどのように成長し、貢献していくのかを考えることが、キャリアを考える上では大事なことではないかと私は考える。現在、大学の「在り方」が問われているが、学生から社会人への成長への支援だと考えている。学生自身が、「社会」や「社会人」をいかに魅力があり、チャレンジするにふさわしい世界として捉えられるか、そして、その社会への適応や貢献の方策をしっかりと自分で考えられるかが、大事だと考えている。

企業で実際に働く方々に協力を頂き、学生に少しでも社会(企業)の実像を知ってもらうこのPBL活動は、活動自体でも学生のキャリア開発という意味で十分に意義があると考える。さらに、その活動を学生がしっかりと内省して、就職活動でも役立てることができ、それを認めてもらい内定を頂けたということは、社会に飛び立つ自信にもなるのではないかと考えた。今後も、更なるチャレンジを続けていこうと思う。