新しい生活様式で高まる「企業変革」と「地域創生」の必要性

研究員コラム
新しい生活様式で高まる「地域」の重要性
コロナ禍による「人の移動制限」は、国境を越えた移動どころか県をまたぐ移動まで制限し、緊急事態宣言の発令により外出さえも制限される事態となった。これにより「遠隔会議システム」による「テレワーク」を企業が取り入れざるを得なくなった。当初は危ぶまれた「テレワーク」推進であるが、結果として企業の業務変革にも貢献することとなり、コロナ禍の収束時期に関係なく恒久的な「テレワーク」推進について言及する企業も多くなっている。「働き方改革」と合わせて「テレワーク」を勤務形態の選択肢として提供することは、「満員電車の回避」や「育児・介護と仕事の両立」という従業員にとって魅力的な提案であるだけでなく、企業側にとってもオフィスや通勤等の移動コスト削減で大きなメリットがある。「新卒」採用にも「テレワーク」勤務を適用する企業も出始めている。

この変革により「地域」の重要性が高まっている。なぜなら、これからの「働き方」は「職住接近」である必要がなくなったからである。従来は仕事の機会を得るため、職場への通勤負荷を軽減するため、高い地価や厳しい通勤環境にもかかわらず都心部に人々が集中していたが、「テレワーク」推進により人々は職場と無関係に居住地を選択することができるようになったのである。「テレワーク」採用の場合、家族との別居を強いてまで高い地価や厳しい通勤環境を選ぶ理由はない。それどころか、現在の居住地よりも地価が安く住みやすい環境への移住という選択肢も出てくるのである。
自治体にとっての税収メリット
「地域創生」には自治体との連携は不可欠である。特に財源である「税収」の議論は重要である。税収アップには地域人口を増やすことが効果的であり、従来は「職住接近」の原則に基づく施策として、企業の誘致または近隣企業へのベッドタウンとして人口を増やす施策が採られてきた。それが困難な場合は、見かけ上の人口である「交流人口」施策として、観光による誘致を行ってきた。観光・通勤圏としての誘致も困難な場合は「ふるさと納税」という遠隔地からの直接納税という施策を採った。残念ながら、いずれも恒久的な地域振興には繋がらず、地域が主導権を持った施策でもなかった。

しかし「テレワーク」による居住地見直しは、「恒久的な住民」誘致の転機が訪れたとも言える。「職住接近」である必要がないので、純粋な「住みやすさ」でアピールすることができるからだ。「ふるさと納税」の返礼品のような限定的・間接的アピールでなく、「地域」全体の魅力を直接アピールできるのである。企業の「小さなオフィス」「テレワーク」推進と連携する形で「地域」の恒久的な人口を増やすことは、自治体の税収アップにも貢献する。具体的な税収ビジョンを描くことにより、自治体と一体化した「地域創生」が加速化するものと思われる。
自治体と連携した「地域創生」シナリオ案
「テレワーク」推進を機とした「地域創生」戦略として期待できるのが、国土交通省が2020年8月以降を目処に準備を進めている「Go To キャンペーン」である。一時的な「観光」誘致のみでなく、恒久的な「住みやすさ」もアピールすることができれば、「テレワーク」推進に伴う「快適な」住み替え先としての検討に繋がる。特に、首都圏の大規模オフィスを持つ企業の「保養所」が存在する自治体の場合は、そのルートから企業の人事部門と連携した「住み替え」検討キャンペーンに繋げることも可能と思われる。
地域には優良な「空き家」物件も存在するが、これを「テレワーク」体制での「快適な住み替え先」としてアピールする方法も考えられる。その場合は、無線ネットワーク等により「テレワーク」が問題なく行える体制整備が必要である。現在は5G技術等の活用により、山間部であっても無線局やドローン中継局を設置することで体制整備は可能と思われる。
「住み替え」アピールが成功し、首都圏企業の「テレワーク」で安定収入を得る地域住民を増やすことができれば、次は一部企業で既に始まっている「副業の推奨」施策との連携が効果的と思われる。かつての兼業農家のような形で、地域の第一次・第二次産業の復興に繋げられるからである。企業との連携が進めば、安定した食材や生産財供給先として地場産業を育成することも可能となる。これらの施策により、事業承継における後継者不足問題の解決にもつながることが期待できる。

これらの施策推進に当たっては、「テレワーク」で生産性を落とすことなく「地域」で就業できる体制作りが必要である。私ども産業能率大学は、「地域創生・産学連携研究所」をはじめ、「テレワーク」の先駆けとも言える「通信教育部門」や、企業や働く方々への支援を行う「社会人教育部門」等を擁している。新たな生活様式の中での「地域創生」に貢献できれば幸いである。
情報マネジメント学部 教授 小田 実(地域創生・産学連携研究所 研究員)