地域金融機関と地域経済の関わり合いの行方を考える

教員コラム
はじめに
地域経済と地域金融機関の密接な関係は今回の新型コロナウィルスの蔓延によって、改めて注目されています。地域経済を支える中小企業の資金繰りを支援するためというのが主な理由でした。これは、2008年のリーマンショックや2011年の東日本大震災など経済状況が急変する度に指摘されています。しかし、地域金融機関はこのような異常事態に備えている組織では当然ありません。そこで、地域経済と共にある地域金融機関の動向について、今後の在り方について考えてみます。
金融庁と地域金融機関の考え方
地域金融機関の経営に大きな影響を与えると考えられるのが金融庁の存在です。金融庁の近年における動きとして、金融処分庁から金融育成庁へ変わるという目標を掲げ、従来から批判のあった金融検査マニュアルの廃止を行いました。さらに、事業性評価に基づいて取引先の融資や経営支援に力を入れるよう、各金融機関に求めるようになっています。現在、一時的にその流れは止まっていますが正常化するにつれて、事業性評価への取組を再び加速させることになるでしょう。

金融庁の方針を踏まえ地域金融機関がどのような取組を進めるかという点について、地方銀行と信用金庫によって異なることが考えられます。これは、営業地域の規模が異なることにあり、地方銀行は基本的に都道府県単位で捉えるのに対し信用金庫は市町村単位で捉えることによる違いです。確かに、個別企業の支援においては地方銀行であっても、信用金庫であっても支援を行うという姿勢に変わりはないでしょうが、組織全体の行動からすればその違いが出てくることになるわけです。
地域金融機関の組織的な特徴から連携する相手は異なる
地域金融機関に共通するのは従来からの手法でこの新たな変化に対応することは難しいでしょう。地域ごとの特徴や課題が大きく異なるわけですから、その事情に合わせた独自の支援手法を確立することが求められているからです。現在、多くの地域金融機関で独自性を出すための模索が続いているわけですが、何も単独で確立する必要はなく外部と連携しても良いわけです。実際、SBIホールティングスによる地方銀行への出資や協力などの動きも、広い意味で地域金融機関が連携先を求めた結果ともいえるでしょう。当然ながら連携をしたからといって全てが解決するような単純な問題ではないにせよ、業務の効率化を図ることによって共通する業務のコストを下げ、その先にある地域の活性化が達成できなければ意味がありません。

それでは、信用金庫は誰とどのような連携を進めるべきなのでしょうか。市町村単位になってくると地方銀行のように大手企業と連携して効率化を求めるようなことも簡単にはいきません。対象となる地域が小さくなるにつれて個々の事情に配慮した支援がより重要になってくるからです。これについて、私は各地に存在する商工会・商工会議所との連携を強化するべきではないかと考えています。これは商工会・商工会議所は全国の市町村に存在し、経営指導員が各地で会員の支援を実施していることから地域の事情に明るいということがあります。もちろん信用金庫も地域の事情に明るいわけですが信用金庫側で支援したくとも、その経験がないわけですから単独では難しいわけです。一方で、商工会・商工会議所による支援も完璧ではありませんから、連携することでシナジー効果を発揮させ、より深い支援が実施できるのではないでしょうか。

しかしながら、商工会・商工会議所側が事業性評価をどこまで実践しているかという点について中小企業庁が委託して実施された調査によれば、不十分であるという結果がでています。商工会・商工会議所からすれば金融庁が提唱している事業性評価という手法に沿った支援を実施する必要もなく、この言葉が何を意味しているのかということに対する理解もないわけです。つまり、事業性評価が実施できていないから支援を実施する能力がないという指摘は誤りであって、むしろ彼らが地域に密着して支援をする姿勢を地域金融機関側は学ぶべきでしょう。
おわりに
地域という概念は、地方銀行では大手企業と連携することによって都道府県単位で捉え、信用金庫は商工会・商工会議所と連携することによって市町村単位で捉えることで、それぞれの特徴を活かした支援が可能になるのではないでしょうか。例外となるような事例も存在するでしょうが、それこそ地方というのは変化に富んでいるとすれば、画一的な地方創生を叫ぶよりも地域ごとの自治に任せ、独自性を生み出せるような支援を目指すことが魅力を生み出す源泉になるのではないでしょうか。


※参考文献
金融庁(2018)「変革期における金融サービスの向上に向けて」
金融庁(2019)「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」
株式会社ドゥリサーチ研究所(2020)「平成31年度中小企業実態調査事業(地域金融における小規模事業者の評価動向調査)」
経営学部 准教授 新井 稲二