
私の視点 2022 Vol.3
2億本超の大ヒット「ブラックサンダー」のマーケティングに迫る
〜 SANNO在学生から経営者にインタビュー 〜
世の中で大ヒットを収める商品の裏側には、マーケティング戦略がある。今回はユニークなプロモーションや商品で幅広く愛されている「ブラックサンダー」で知られる、有楽製菓株式会社の河合辰信社長に経営学部4年の岡田谷沙羽さんがインタビュー。お客様視点から考える商品企画とは。誰もが知るヒット商品のマーケティングに迫ります。
「おいしい」と「楽しい」、2つの愛される理由

経営学部 マーケティング学科4年の岡田谷沙羽です。今日は河合社長に直接お話を伺えるということで楽しみにしてきました。よろしくお願いします。
有楽製菓株式会社の河合辰信です。どうぞよろしくお願いします。


子どもの頃からずっと「ブラックサンダー」には親しみを持っているのですが、年間販売数2億本(※)も売り上げていると知って驚いています。
※シリーズ累計出荷本数
最後に集計したのが2018年ですし、商品ラインナップも増えていますからおそらく、現在は2億本を超えていますね。


まさに“国民的に愛されるお菓子”ですね。河合社長はなぜここまでブラックサンダーが愛されてきたと思いますか?

ブラックサンダーの在り方というのが一番大きな理由なんじゃないかなと。


在り方といいますと。
まず、お菓子としてのクオリティの高さ。手前味噌ですが、純粋に「おいしい」というのがあります。


あれだけ手頃な価格であのおいしさには感動します!
味もそうですし、価格や品質へのこだわりも妥協しない。そのしっかりした土台がある上で、コミュニケーションツールとして「楽しい」ということが、お客様に長年愛していただいている理由だと思います。


「楽しい」というのは、どういうことでしょうか。
パッケージなどの見た目やユニークなキャッチコピー。バレンタインの「義理チョコプロモーション」など、お菓子を通して楽しさが生まれることですね。


私も中学生の時のバレンタインデーでは、義理チョコとして男の子にブラックサンダーを配っていました(笑)。
まさに、そういうお菓子を通した「楽しい」コミュニケーションが生まれるのはブラックサンダーの特徴ですよね。

お客様の心理から生まれた、プレミアムシリーズ

2020年からはプレミアムシリーズも発売されていますが、定番のブラックサンダーとはどんな違いがあるんでしょうか?
定番のブラックサンダーもプレミアムシリーズも基本要素は同じです。「おいしい」と「楽しい」、シンプルにこの2つ。その中でも「おいしさ」の要素を徹底的に追求したのがプレミアムシリーズです。



「至福のバター」や「ガトーショコラ」「ヘーゼルナッツ」など、どれも本当においしそうです。
本当においしいものを、というと当たり前のようですが、お客様目線に立って考えたことで辿り着いたコンセプトなんです。


お客様目線というのは。
たとえば、お客様にどんな味のものが欲しいかと聞くと、いろんな答えが返ってくる。こんな味がおもしろそう、こんな味も食べてみたいなど。けれど、実際に一番売れるのはやっぱり定番の味です。


真逆ですね。
ここからわかることは、やっぱり人は「おいしいものが食べたい」という心理。お客様がおいしさを一番に求めているのであれば、徹底的にそこを追求していきたいなと。


お客様が求めている「心理」から読み解いて商品開発をする。SANNOのマーケティングの授業でも同じようなことを学びました。

もちろんお客様にブラックサンダーをいろんな角度から楽しんでもらいたいと思って開発をしていますが、実はマーケティング戦略の狙いもあるんです。
定番のブラックサンダーと一緒にプレミアムシリーズを店頭に置いていただくことで、より定番品の良さを引き出して輝かせてくれるという役割です。


シリーズとして違いを引き立たせることで、定番品への価値も再認識してもらえるんですね。
結果的に「おいしいものが食べたい」という心理から、安定したおいしさがわかっている定番品の売り上げにも貢献すると思います。

わくわくするか?ユニークさが光る開発現場

ファンサイトにあった「ジャンドゥーヤ」(現:「ヘーゼルナッツ」)の誕生裏話で、河合社長自ら食べた時の幸福感を妄想して、そのストーリーを開発担当者に伝えたという話がとてもユニークだなと思いました。
お菓子はお腹を満たすだけでなく、心も満たすものだと思うので、食べた時に気持ちがリラックスできるようなものを目指したかったんです。だからどんな場所やシーンで、食べた人がどんな気持ちになるんだろう?と妄想しながら具体的な味や商品のイメージがすり合わせられるんじゃないかと思いました。



それがあの妄想劇場なんですね。企画のおもしろさやユニークさはどんなことを意識されているんでしょうか。
とてもシンプルで「自分がお客様だったらどんなものがおもしろいか、わくわくするか」という視点です。


皆さんで話し合いながら決めていくんですか。
商品企画は基本的には3名のチームで、年間約20商品の企画を考えています。


そんなにたくさん!
もちろん、毎商品世界観やストーリーを作り込めるわけではないのですが、プレミアムシリーズに取り組み始めた当初は、どういう方向を目指せばいいのか、共通認識がなかったので、より解像度を上げた「ストーリー」の方がみんなで共有しやすいなと思いつきました。


商品そのものだけでなく、キャッチコピーにもとても惹きつけられます。こちらも商品企画のチームで考えているのでしょうか。

プレミアムシリーズ「至福のバター」にある「発酵バターにおぼれたい」は私が考えましたね。


河合社長の案だったんですね!これはどんなふうに考えているんでしょうか。
パッケージを見てみると、たくさん言葉が書いてありますよね。キャッチコピーや商品名、シリーズの特徴を表す言葉など。それらを最初に並べてみたときに、「まじめだな」という印象を受けたんです。だから、コピーに遊びを加えました。


全体のバランスを見ながら考案されているんですね。
商品名でしっかりと特徴を伝えられていたらキャッチコピーで遊ぶ、逆に商品名がユニークならば、キャッチコピーでしっかりと魅力を訴求するという具合です。


とてもおもしろいです!
マーケティングで、お客様の笑顔を生み出す

チームで商品開発をする上で大切にされていることはなんでしょうか。
社員がおもしろい発想や思いついたこと、意見を発信しやすいような雰囲気づくりには力を入れてきました。まずは私が一番しょうもないことを言うように努めていますね(笑)。



社長自らおもしろい発想をシェアしてくれるのは嬉しいですね。
メーカー視点で考えてしまうと、つい保守的になってしまいますから、お客様視点でこんな商品があったら、という自由な発想はとても大切です。


「何を作りたいか」ではなく「何が求められているか」で考えるということですね。
前回よりも良いものを作りたいというメーカー側の意識は、時として変えなくても良いものも変えてしまいます。一旦立ち止まって、コンセプトを軸に考えて、あえて一つ前のものに戻すというのも商品開発では必要な考え方だと思います。


SNSにも力を入れていますよね。

ブラックサンダーは94年に発売を開始してから約10年はあまり売れませんでした。そこからさまざまな形で話題にしてもらい、徐々に売り上げが伸びていったのですが、お客様の口コミによって広がってきたという実感があります。だからこそ、リアルな口コミに代わるSNSは大事なコミュニケーションツールだと考えています。


発信内容にも戦略はあるのでしょうか。
ただ情報発信するだけではダメなので、いかに口コミしたくなるかを意識していますね。


今後の展開について教えてください。
まずは、プレミアムシリーズの定番化に注力していきたいですね。あとは、2022年秋までにブラックサンダーで使用しているすべてのカカオ原料をサステナブル化できる見込みが立っています。さらに2025年には全商品のサステナブル化も予定しており、業界全体のこれからを見据えて動いていきたいです。



今日は刺激的なお話を聞けてとても勉強になりました。最後に、これからマーケティングを志す学生たちに向けてメッセージをお願いします。
マーケティングや商品企画の醍醐味は自分で創り出したものが世の中に出て、反応を見られるというのが一番なんじゃないでしょうか。特にSNSがある今は、お客様の反応もダイレクト。これはすごく幸せなことです。時には厳しい意見をいただくこともありますが、マーケティングを駆使して、うまく世の中にハマった時には、ものすごい数の笑顔が見られるはずです。ぜひ、その楽しさを知っていただきたいですね。ありがとうございました。


ありがとうございました。

プロフィール
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河合 辰信 TATSUNOBU KAWAI
有楽製菓株式会社 代表取締役社長
大学院修了後、システムエンジニアとして大手企業に勤務。2010年有楽製菓入社後は工場勤務、商品開発を経てマーケティング部の立ち上げや営業の統括なども担当。ブラックサンダーの「義理チョコプロモーション」やラップ動画など数々のプロモーションの仕掛け人となり、2018年より代表取締役社長に就任。
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岡田谷 沙羽 SAWA OKADAYA
産業能率大学 経営学部 マーケティング学科 4年
商品開発について学びたいと思い、マーケティングが学べるSANNOへ入学。マーケティングの基礎から調査・データ分析、発表まで幅広く学ぶ。課外活動にも積極的に取り組み、一般社団法人 未来教育推進機構(UMEDAI)が主催する「SDGs探究Awards2020」にて学生部門の優秀賞を受賞。