高校の先生向け 進路コラム 第5回 <2023年度連載>

第5回 受験の成否は「最高の併願校」の有無にかかっている

【併願校選びをおざなりにすると、第一志望にも受かりにくくなる?】

 年内入試への対応に追われる時期と思いますが、年明けから始まる一般選抜に向けた状況はいかがでしょうか?

 高3も夏休み明けとなれば、「後はひたすら第一志望校の合格に向けて勉強させるのみ!」という先生もいらっしゃることでしょう。お気持ち、わかります。でも、併願校選びをおろそかにしている生徒さんはいませんか?

 特に一般選抜を中心に受験を組み立てる場合、憧れの第一志望校(チャレンジ校)に加えて、実力相応校や安全校、いわゆる「滑り止め」まで複数の併願先を用意する受験生が多いと思います。その際「安全校 → 実力相応校 → チャレンジ校」の順に入試日を迎えられたら理想的、と、受験業界ではよく言われます。本番の入試に慣れていけること、合格を得たという安心感を得ることで「本命校」に向けて力を発揮しやすくなることなどが主な理由です。

 言い換えると、「ここなら行っても良い」と思える滑り止め校を持っていることが、実はとても大切なのです。いくら滑り止めと言っても、進学したくないと思うような学校なら安心感は得られませんし、意味はありません。足元をおろそかにしない受験生ほど、結果的に高い目標にも手を伸ばせる……というわけですね。

 しかし実際には、憧れの第一志望群ばかりを比較し、併願校はおざなりという受験生も少なくありません。志望度の高い大学は熱心にリサーチしても、併願校となると「日東駒専」のような括りで適当に選ぶ生徒も。大学入学共通テスト利用入試などで合格した場合、4月の入学式まで一度もキャンパスを訪れないケースすらあります。ちょっと心配になりますね。入学手続前に理解を深められるようにと、2〜3月に合格者向け説明会を開催する大学もあるほどです。

 かくいう私自身もまさに「第一志望以外はほぼ偏差値とブランドだけで選んだ」という受験生でした。結果的に「滑り止め」と思っていた1校を除いて受験は散々な結果に。たまたまその1校が「実は業界で評価が高い大学」と進学後に知ったこともあり、充実した大学4年間を送れたのですが、いま思うと危うい受験でした。同じような失敗をしないようにね、と高校生にはよく話しています。

【併願先選びは高3の秋からでも十分、というのは過去の話。時間がなくてもリサーチできるポイントは】

「国公立大学しか学校行事に呼ばない」「難関として認知されるブランド大学ばかりを生徒に見学させる」といった指導をされる高校の話も、しばしば耳にします。高い目標を持たせるため、安易な妥協をさせないためといった先生方の想いが背景にはあるのでしょう。ですがそれが結果的に、受験の合否はおろか、その後の大学での学修にもマイナスの影響を与えていることがありますので、お気を付けください。

 ある大学が在学生に対して詳細なアンケートを行いました。「この大学を初めて知った時期はいつか」という質問に対して「高3の秋以降」と回答する学生達が一定数いたのですが、もっと早くに知ったという学生達に比べて、明らかにその後の中退率や留年率が高かったそうです。入学難易度だけで併願を決めた結果、進学後にミスマッチを起こしているケースですね。以前なら高校3年生の秋になってから受験先を検討することはそう珍しくありませんでしたが、大学教育のあり方が多様化したいまでは、そのやり方は見直されつつあります。

 目標を高く持ち、最後まで努力をさせることは受験においてとても大切です。だからこそ第一志望群の大学だけでなく、併願校までしっかり検討させる指導が、遠回りに見えて実は効果的。偏差値だけではなく「望む成長ができるかどうか」で受験先を決めることが大事です。先生方から生徒さんへ、「併願先はリサーチしたのか」と問うてみてください。

 高校2年生なら、これからすべての受験先候補を見学に行くこともできるでしょうが、高校3年生ともなると時間的な余裕がなくなってきます。いつも申し上げることなのですが、一番大事なのは施設の豪華さや立地ではなく、教育力。その大学の教育方針は「なりたい自分」に近づけるようなものなのか、就職率や資格取得率といった成果はどうなのか、産業界からの評判はどうかといった教育力は、大学が発表する各種のデータや様々な大学ランキングでの評価からも読み解くことができます。受験勉強の間にチェックしても良いですし、ここは保護者が手伝っても良いと思います。

 「中退する大学生も、実は結構多い」という事実を伝えるだけでも、併願先選びの真剣度は増すはず。進学後の後悔を減らすために、高校でできることはまだあります。受かるために勉強するのではなく、勉強するために受かるのが本来の大学受験の姿。勉強したい先なのかどうかを、ぜひ考えさせていただければと思います。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/