高校の先生向け 進路コラム 第4回 <2023年度連載>

第4回 オープンキャンパスの事前指導、ここがポイント

【事前指導の有無が、オープンキャンパスでの気づきを大きく左右する】

現在では多くの高校が、夏休み中のオープンキャンパスへの参加を生徒に勧めているそうです。「少なくとも2大学は見てくるように」などと具体的に指導されているケースもありますね。

 ただ、「行き先をどのように選ぶべきか」「当日はどこをどのように見てくるべきか」といった事前指導が行われているケースは多くありません。この時期、「オープンキャンパスの何が楽しみ?」と高校生に問うと、「学食体験」「サークルやアルバイトの話が聞きたい」なんて回答が返ってくることも。学びではなくキャンパスライフの方に関心が偏ってしまっているのですね。せっかく参加しても、これではあまり良い気づきが得られそうにありません。

 今回は夏休みを控えたいま、生徒に伝えておくべきポイントをご紹介します。

 オープンキャンパスに参加する目的は、学年によって少しずつ異なります。たとえば高校1年生なら、「大学ってどんなところなのだろう」とイメージを掴むことも立派な目的。加えて文理選択を控えている場合は「文系と理系、それぞれの模擬授業を必ず一つずつは受講しなさい」なんて指導も、ミスマッチ予防という点で非常に効果的です。学部研究を行う2年生なら、「文学部のような人文科学系と、経済学部のような社会科学系、両方の授業や説明に触れてみなさい。思わぬ魅力に気づくかもしれないよ」なんてガイドをお勧めします。

 世の中の学問や職業について高校生が持っている知識は限られています。「もう志望学科を決めました」と言っている生徒さんでも、実は最初から限られた狭い範囲でしかリサーチをしていない、なんてことはよくあること。「いまはあまり関心を持っていない分野の話でも、だまされたと思って積極的に聞いてごらん」と、視野を広げるような指導を先生方から行うだけで、気づきの幅は格段に広くなります。高校生のうちにそういうリサーチをしておけば良かったと後悔している大学生が、実は少なくないのです。

 3年生は、いよいよ具体的な志望大学の比較検討を行う段階ですね。たとえば同じ経営学部でも、大学によって教育の方向性や、就職率のような実績には差があります。実際に教職員や先輩学生の話を聞きながら、様々なデータも参考にして、「なりたい自分」に近づけると思える大学を探してみると良いでしょう。また模擬授業のほか、最近ではアクティブラーニングの体験など、普段の授業のスタイルを伝える工夫をされている大学もあります。参加のハードルがやや高いと感じるようなプログラムほど、得られる気づきは多いもの。先生から背中を押してあげてください。

 模擬授業や全体説明だけ聞いて帰ってくる参加者も多いのですが、質問・相談コーナーには必ず立ち寄れと私はいつもアドバイスしています。あなたが気になっていることと、他の人が気にすることは、必ずしも同じではないのですから。疑問や不安を当日のうちにすべて解消してくる、というのもオープンキャンパスの大事なポイントです。

【訪問先選びにも工夫を。早期からの参加が入試の準備にも繋がる】

訪問する先の選び方にも、ひと工夫の余地があります。「2校以上見てきなさい」としか言わないと、多くの高校生は世間的に知名度が高い、都心の大規模総合大学ばかり見てきます。悪いとは言わないのですが、学習環境が似通っている大学ばかり訪れてもあまり気づきは広がりません。大規模大学と小規模大学、総合大学と単科大学、都心の大学と郊外の大学……のような比較軸を提示し、「対照的な2校を意識的に比較してきなさい」と先生の方で事前にガイドを加えておくと、それだけで大学を見る目が養われます。小規模単科大学の方が肌に合う、なんて高校生は少なくないのです。

 高校3年生になって初めてオープンキャンパスに行く、なんて高校生もまだまだいますが、できる限り早くから参加することを私はお勧めします。上述した通り、1・2年生のうちに理解を深めておくべき点は多いですし、高校3年生の夏の時点で志望する学部や学科がガラッと変わってしまうのは、入試への準備という点でも少々余裕がありません。

 また学校推薦型選抜や総合型選抜が広がっている現在では特に、「この大学は他の大学と何が違うのか?」という比較を十分に積み上げてきたかどうかが入試で問われます。一般選抜をメインにされる場合も、「小規模な大学が私には合っていると感じたから、同じ入試難易度帯でそうした大学をいくつか選んでみよう」という方針を本人が持てていれば、併願校の選択で慌てずに済みます。

 各大学ともオープンキャンパスには力を入れています。楽しげな企画も盛りだくさんで、その雰囲気に圧倒される高校生もいるでしょう。ですが、お客様や消費者のような姿勢で「おもてなし」されて帰ってくるようではいけません。大学は、学ぶ場です。主体的な学習者として、「私が使いたい仕組みや制度はあるのかな」と、値踏みしてくるくらいでちょうど良い。厳しい目で大学を見定めて来い、というアドバイスを、先生方からぜひ。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/