高校の先生向け 進路コラム 第2回 <2023年度連載>

第2回 大学が多様な入試を行っているワケ

【「一般選抜での入学者が最も優秀」は本当?】

年間に100件ほどの講演を行っております。その大半は高校での進路講演。高校の先生方からご要望をいただき、生徒や保護者の皆様にお話をしています。そこでしばしば、「ちゃんと最後まで一般選抜で受験することが大事だと生徒に伝えてください」なんてご要望を、先生から事前にいただくこともあります。「ちゃんと」という文言からは、一般選抜こそ入試の本流だという想いが垣間見えます。

 特に総合型選抜は、先生にとって色々と苦労が多い入試です。指導には多大な労力がかかりますし、模試で測れる偏差値のような合否判定基準もありません。複数の大学に挑戦する一般選抜と違って、総合型では1校しか受験しない生徒も多いため、合格実績も1件どまり。早くに受かった生徒が、一般選抜を目指す受験モードの空気を乱してしまう……なんて声も聞かれます。「最後まで努力した一般選抜組と違い、楽して受かった総合型の学生は進学後に苦労する」と考える先生も少なくないようです。

 実際にはどうか。読売新聞社は2019年まで毎年、全国の大学・学部の中退率を入試種別ごとに調べ、報じていました。そのデータを見ると、必ずしも総合型選抜(当時はAO入試)の中退率が高いとは限りません。一般選抜組が最も中退している一方、AO入試や推薦入試の入学者はほぼ中退していないという例も多いのです。

 東北大学や東京工業大学、慶應義塾大学の法学部およびSFC(総合政策学部、環境情報学部)では、AO入試の入学者が進学後に最も優秀な成績を修めているそうです。

【大学が、多様な入試制度を用意している理由】

なぜ大学が多様な入試制度を用意しているのか。その狙いは多様性の確保にあります。似たようなバックグラウンドを持つ学生ばかりでは議論も活性化しませんし、学生達の活動も偏ってしまいます。東京大学や京都大学が推薦入試を始めた理由も、大きくはその点にあります。

 大学が入学者に期待する能力や資質は、入試種別ごとに異なります。これは一般論ですが、一般選抜による進学者達は、確かな基礎学力や学習に対する集中力などを持っているだろうと大学は考えます。学校推薦型選抜の進学者には、高校時代にコツコツと努力してきた、または校内外での活動を積極的に行ってきたといった真面目さや努力する力を期待します。

 総合型選抜組の強みは「学びに向き合うエンジンが最初からかかっている」という点です。高校生のうちから取り組んできたことがある、志望理由が明確である、他者と協働する力がある、表現力がある……等。グループワークも多い今の大学では、こうした学生が周囲に良い影響を与えてくれる場面も多いのです。

 国公立大学の多くは現在も一般選抜で多くの学生を受け入れているため、国公立大学の合格実績を上げるために一般選抜中心の受験指導をせねばならない……という事情を抱える先生もいらっしゃることでしょう。ただ、2021年度入試では国立大学でも76.8%が総合型選抜を実施していますし、定員に占める割合も年々増加しています。(※1)生徒それぞれが持つ強みに合わせて、それが活かせる入試を選べば良いのかなと、私は思います。

 でも、高校の先生方が一般選抜を進めたくなる理由もわかります。特に「早期に合格を手にした生徒がその後、勉強しなくなる」という点は確かに心配ですよね。

 大学の学びには基礎学力も、その学問に対する意欲や資質も、両方必要です。どちらかだけで十分ということはありません。高い基礎学力で難関大学へ進学したけれど、進学した学科の内容に興味が持てず、授業に来なくなってしまったというケースは珍しくないのです。でも一般選抜では基礎学力を測る一方、意欲や資質は問われないことが多いですね。総合型選抜では意欲などが重視されますが、基礎学力は未チェックというケースも多い。それは学力不要という意味ではなく、「そこは自分で準備してきてね」という意味なのです。その点を誤解している高校生は多いように思います。たとえ総合型選抜や学校推薦型選抜で合格しようと、一般選抜組に負けない熱量で最後まで勉強することが大切です……と、私も講演ではよくお話ししています。

 受かるために勉強するのではなく、勉強するために受かるのが、本来の入試の姿。すべての入試種別でこれは共通です。本当は両方大事なのだという点を、ぜひ先生方からもすべての生徒さんへお伝えいただければと思います。
倉部 史記
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/