プロが教える「進路づくり」 第8回

PROFILE
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/

第8回 実力のある大学を見抜く!「大学案内」の読み解き方

どの大学案内も印象としては結構、似ている?

高校生が志望校のリサーチをするとき、参考にする情報源の一つが大学による公式パンフレット、いわゆる「大学案内」でしょう。大学の理念や各学部・学科の特色、就職状況、在学生や卒業生の声など、膨大な情報を多彩なビジュアルとともに見やすくまとめてくれています。スマートフォンで簡単にウェブ上の情報を探せる現在ではありますが、いよいよ志望校を決める段階となれば、ほとんどの方は大学案内を取り寄せている様子。基本的にはほぼすべての大学が無料で発送してくれますから、進路検討のために気軽に活用して良いと思います。

……と、ここまでは一般的な話。本コラムでは、高校の先生や大学関係者が教えてくれない大学案内の「読み方」に触れたいと思います。

大学案内はぶっちゃけて言えば、その大学の広報・学生募集部門が制作したPR誌。主な目的は志願者の獲得です。「この大学は楽しそうだなぁ」「ここに入学すれば就職できそうだ」といった印象を持ってもらえるように制作されています。ですから本コラムでこれまでご紹介してきた中退率や留年率などのネガティブな情報は、基本的には掲載されていません。

さらに言うと、どの大学が制作する大学案内も、受ける印象は非常に似通っています。面倒見が良い、資格に強い、就職率が高い、少人数教育である、グローバル教育に力を入れている……といったフレーズは、おそらく10校から大学案内を取り寄せれば、そのすべてに載っていることでしょう。

印象や直感で、気になる大学を探すフェーズもあって良いと思います。特に高校1、2年生のうちは、そうして進路観を広げていく工程も大事でしょう。しかし併願校も含めて実際の志望校を絞り込んでいく高校3年生ともなれば、過度に印象に引っ張られることなく、自分にとって重要な情報を大学案内の記述から抽出する力が必要。ここでは人生経験豊富な保護者の助言があっても良いと思います。

学びの実態を示す具体的な記述を探しながら読もう

就職率や中退率といったデータは、マスメディアなどが調査し、大学ごとに比較している情報の方が参考になるかもしれません。大学案内でチェックしたいのは「どのような教育を経て、そのような結果になったのか?」というプロセスの部分です。

たとえばある大学の就職実績が非常に良い、それも同程度の入学難易度の大学と比べて「正規雇用率」が抜群に高かったとします。では、なぜそのような成果を出せているのでしょうか? 大学案内を見れば、企業と連携した授業が多いことや、アクティブラーニング型授業の比率が大学全体で高いことなど、関連する情報が紹介されているかもしれません。

「社会が求めるジェネリックスキルが着実に身につくよう、カリキュラムの中でこのような工夫をしています」「他者と協働する力や姿勢を伸ばせるよう、たとえば授業はこのように進行され、このような課題を学生達に課しています」など……教育のリアルな実態を具体的に説明する記述を探してみてください。そうした教育が大学全体を挙げて展開されているものであれば、その旨も書かれているはず。広報上のキャッチフレーズを裏付けるような、具体的かつ地に足が着いた教育の実態を示す記述を探すことが、大学案内を読むときのポイントです。

これもちょっとしたコツですが、

(1)建学の理念、教育ミッション
  (なぜこのような教育を行うのか)
      ↓
(2)具体的な教育上の取り組みや学習環境の説明
  (何をどのように学生に提供しているのか)
      ↓
(3)卒業後の進路や資格の合格率、英語スコアの変化といった教育成果
  (実際にどのような成果が上がっているのか)

……という3点をまず大学案内から探し、これらをひとつの一気通貫したストーリーとして読もうとすると、大学の個性や実力を把握しやすいと思います。

またその際は、複数の大学の大学案内を取り寄せ、それを比較しながら読むことも大事です。
「A大学に比べて、B大学は具体的な記述に乏しいような……」
「どの大学も企業との連携を謳っているけれど、企業名や教育内容を子細に紹介しているのはC大学だけだなぁ」「この大学はサークルや学食の記述ばかりに力が入っていて、学びの説明はスカスカかも?」
……といったことにも気づけるはず。大学案内の読み方を考えることは、大学の見方を考えることでもあります。

最後に。教育力に自信のある大学ほど、入学後の学びの姿をストレートに伝えます。楽ではない課題が多く出ることや、主体的な授業参加が求められること、でもそれらをバックアップする体制も用意されていること……等々。保護者という視点を一度離れ、ひとりの社会人の目でそうした記述を見てみてください。「こんな環境で学んだ学生なら一緒に仕事をしたい」と思える大学かどうか。その社会人としての直感は、かなり重要な判断材料になると思います。