プロが教える「進路づくり」 第7回

PROFILE
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/

第7回 「グローバル人材」、我が子には関係ないと思っていませんか?

2050年のデータが教えてくれる、進路選択の2つのヒント

表は2010年と2050年の、GDPトップ10の国です(※1)。かなり顔ぶれが変わりますね。2050年トップ10の具体的なGDPのグラフには、さらにインパクトがあります。日本は世界8位ですが、上位の国とはかなり大きな差があるとわかります。
2050年というのは、今の高校生が50歳近くになる頃。これから大学で学ぶ彼らにとって重要なのは、2010年よりも2050年のデータでしょう。

ここから二つのことが言えると思います。第一に、英語力の有無は、与えられる仕事の幅を大きく左右する要素になります。保護者世代の方も既にその実感をお持ちかも知れませんが、今の高校生はさらに影響の度合いが増すことでしょう。

ある小さな地方自治体の人事担当者が仰っていました。「これから採用する大卒職員には、できれば全員に留学経験を期待したい」。どんな町でも今後、外国人居住者は増えていきます。でもベテランの職員はほとんど英語ができません。かといって各部署に通訳を雇う訳にもいきません。だから新しい職員には皆、各部署でグローバル対応の軸になって欲しいというわけです。企業でも今後は同僚や取引先、顧客などとして、様々な国籍の方と接する機会が増えていくでしょう。「私は日本人の相手しかできません」という理由で仕事のチャンスを逃すのは、もったいないですよね。

第二に、「英語ができるだけ」ではもはや不十分だということです。2050年には看護師や保育士、薬剤師といった専門職の方々も、業務遂行のために必要な、ある程度の英語力が求められるようになっている可能性が高いです。現在でも少し大きめの病院であれば、英語で患者の対応ができる医療スタッフが必要になってきています。英語を使って業務を行っている専門職は、高校生が想像している以上に多いのです。

ビジネスの現場もそうです。全世界に製品を販売している家電メーカーなどはもちろん、特定分野で評価の高い中小企業などでも、技術者や営業職を筆頭に、国境を越えて仕事をしている人は少なくありません。日本に本社を置く企業だけれど、国際的な業務展開を考えて社内の公用語を英語にした、という例も既にあります。こうした職場では確かに語学力が大事ですが、それ以上に重要なのは「どのような価値を生み出せる人材か」。たとえネイティブスピーカーのように自然な発音ができなくても、自分の専門領域において必要な語学スキルをある程度身に付けているなら、後は「その英語を使って、何ができるか」が大事です。

グローバルゼネラリストと、グローバルスペシャリスト

今の高校生は様々な場面で「グローバル人材になれ」という言葉を聞いていると思います。そう聞いて多くの高校生がイメージするのは、「語学を中心に幅広く教養などを学び、様々な国の文化を理解し、留学を経験して、世界中の人と協働できる力を磨く」といった学びではないでしょうか。最近増えている国際教養学部など、学部名に「国際」や「グローバル」などの言葉を掲げる学部には、こうしたカリキュラムのものが多いですね。

一方で最近では、工学部や経営学部、法学部、看護学部など既存の学部もまた、国籍を超えて専門的な仕事ができる人材の育成を掲げています。「専門性 × グローバル対応力」で勝負する人材です。前者が育てる人材像をグローバルゼネラリスト、後者をグローバルスペシャリストと呼びますが、英語の得意な高校生は前者ばかりに目が行きがちで、逆に他学部の志望者は語学や留学などに無関心……という二極化の傾向も感じます。ここは保護者をはじめ、周囲の大人が少し助言をしても良いのかなと思います。

お子様が英語を得意とされていて、国際系の学部などに興味をお持ちの場合は、「国際系の学部だけがグローバルというわけじゃないよ」、「英語を使ってあなたは何がしたいの?」……などと問うてみてはいかがでしょうか。逆に、語学や留学などにまったく関心がない場合は、「どんな分野で学び、働くにも、あなたは英語から逃げられないよ」「専門的な学科の中で、いまから留学に挑戦していたら、それは後に大きな付加価値になるよ」……などと助言するのもアリと思います。

たとえば産業能率大学の場合は、経営学を学ぶ大学です。実践的な経営学の知識やスキルをしっかり系統的に学んだ上で、もしも留学などを経験していたら……。ただ英語で日常会話ができるだけの人よりも、ビジネスの現場で良い仕事ができるのではないでしょうか。いつか入社した先で海外に関わる仕事などが上ったとき、その学びを強みにできる場面もあると思います。

グローバルゼネラリストと、グローバルスペシャリスト。どちらが良いというわけではありませんから、自分の望む成長イメージに近い学びを選べば良いと思います。ただ、早いうちにこうした問いかけを通じて、これから生きる社会のことと、自分の勝負の仕方を想像しておくことは、2050年を生きる高校生達にとって非常に大事だと思います。


※1:シティグループ「Global Economics View」2011.2 を元に作成