プロが教える「進路づくり」 第4回

PROFILE
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/

第4回 大学の中退率や「正規雇用率」をチェックしよう

データでわかる、大学の「リアル」

第1回目のコラムで、「大学生の約12%が中退し、ほか約13%は留年を経験」というデータをご紹介しました。中退率や留年率などの数字は、実は大学ごと、学部ごとに大きく異なります。同じ学部系統で入試難易度が同程度でも、大学によって数字が倍以上違うことは珍しくありません。同じ大学でも、ある学部は97%が4年で卒業しているが、隣の学部は70%だという例もあります。

このように、データでわかる大学の「リアル」があります。

保護者の方々に知っていただきたいのが「正規雇用率」というデータ。ずばり、正規雇用(正社員)として就職した学生が何割かを示す数字です。ここだけの話、各大学が発表する就職者数には、非正規雇用が含まれている例も多いのです。就職を年度途中で断念し、翌年での再挑戦を決めた学生を、その年の就職希望者数から除いて就職率を高く見せるといったテクニック(?)も、大学業界ではしばしば使われています。

大学が制作するパンフレットやウェブサイトに、こうしたリアルなデータが掲載されることは稀です。数字が一人歩きし、高校生が表面的なイメージで大学を評価しないかと、大学の方々も心配なのでしょう。とは言えご家庭からすれば、正確なデータを進学先の比較検討に活かしたいと考えるのは当然です。

補足しますと、中退や留年は必ずしも悪いわけではなく、理由にもよります。たとえば海外留学や、インターンシップのための休学などで在学期間を延長するのは、個人的にはむしろ推奨したいほどです。また業界や職種によっては、非正規雇用からのキャリアスタートが珍しくない例もあります。データの活用にあたっては、過度に数字の印象に引きずられないよう注意が必要です。

さて、保護者の方々がこうしたデータを調べるのなら、読売新聞社が調査している「大学の実力」データベースというのがあります。
■「読売教育ネットワーク『大学の実力』検索」(読売新聞社)
上述した中退率、留年率、正規雇用率などを、「4年前の入学者に占める割合」で教えてくれるサイトです。「大学名から探す」という検索フォームに「産業能率」と入力すれば、産業能率大学のデータが表示されます。 例を出してご説明しましょう。以下は東京都内に本部を持つ8大学の、経営・商学系学部のデータを、読売新聞社のデータベースで検索した結果です。
卒業後の進路を示すデータ 4年間の過ごし方を示すデータ
正規雇用率 進学率 4年での卒業率 留年率 退学率
産業能率大学 経営学部 79.6% 1.7% 85.7% 6.3% 8.0%
A大学 経営系学部 77.9% 1.4% 82.5% 11.2% 6.2%
B大学 経営系学部 76.6% 0.2% 80.7% 17.3% 2.0%
C大学 経営系学部 72.7% 2.8% 80.9% 9.4% 9.7%
D大学 経営系学部 70.0% 1.9% 79.0% 15.8% 5.2%
E大学 経営系学部 69.5% 1.7% 79.1% 11.8% 9.1%
F大学 経営系学部 68.0% 1.6% 76.6% 15.1% 8.3%
G大学 経営系学部 67.2% 2.3% 75.9% 15.9% 8.2%
※「読売教育ネットワーク『大学の実力』検索」の検索結果(2018.08.27現在)をもとに作成。
※いずれも4年前入学者に占める割合(%)
具体的には、<青山学院大学経営学部、国士舘大学経営学部、駒澤大学経営学部、産業能率大学経営学部、専修大学経営学部、東京経済大学経営学部、東洋大学経営学部、日本大学商学部>の8大学ですが、産業能率大学以外の大学名は、ここでは伏せておきます。 留年率と中退率を合計すれば、「4年での卒業率」を100%から引いた数字とほぼ一致するはずです。留年率は最も高いが、中退率は最も低いB大学など、大学によって入学後の状況に特徴があることが見て取れますね。 これらを見る限り、産業能率大学は8大学の中で「4年間で卒業する学生が最も多く、かつ正規雇用率の高い大学」ということになります。各種の大学ランキングで、産業能率大学は「面倒見の良い大学」「就職に力を入れている大学」といった評価を受けていますが(※1)、データも確かに、こうした評価を裏付けているようです。 もちろん違う指標で見れば、違う側面が見えてくるでしょう。たとえば公務員の採用実績や、難関資格の合格者数などで比較すれば、また違った大学ごとの強みがわかるかもしれません。複数の指標で検証することで、大学の姿が立体的に浮かび上がってくるはずです。

大学のデータを進路選択で活用する際のポイント

こうした数字を活用する際に、大事なことは2点あります。

第一に「自分にとって重要な数字」を見ることです。たとえば貸与型奨学金を活用する方にとって、正規雇用率や留年・中退の実態はかなり重要なはず。昨今では留年・中退や就職活動の失敗を機に奨学金の返済計画が崩れ、破産に追い込まれるケースも増えているからです。でも「何年かかっても良いから、この難関資格を取りたい」「1〜2年くらいアフリカに留学したい」といった希望を持つ方なら、資格の合格実績や交換留学先の情報がより重要でしょう。自分のモノサシで大学を測ることをお勧めします。

第二に、数字を見た上で「自分はどうなるのだろう」と考えることです。たとえば数字上、9割の学生が卒業しているとします。それは逆に言えば、1割が卒業できていないことを意味します。あなた自身がその1割に入るかもしれません。どのような学生が1割の側に入るのか……と想像してみてください。ブランドイメージに引かれて適当に大学を選んだのかもしれませんし、進学後の学業で油断したのかもしれません。9割というけれど、本人にとってはゼロか100%か。成否を分ける理由がどこにあるのか、高校生のうちに考えを巡らせてみると、自分がいまやるべきことも見え、結果的に進路選択後の後悔が減らせると思います。

データを賢く活用しながら、進学後のことを想像してみてください。