プロが教える「進路づくり」 第3回

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「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/

第3回 アクティブラーニングって、どんなもの?

アクティブラーニングって何? なぜ必要なの?

ここ数年、教育業界を最も賑わせているキーワードが「アクティブラーニング」。簡単に言えば、先生がただ一方的に講義を行うのではなく、学生の側が能動的に学びへ参加しながら進めていく授業スタイルのことです。

多くの保護者がイメージする大学の授業風景は、「階段状になった大教室で、数百人が静かに教授の講義を聞く」というものでしょう。これに対してアクティブラーニング型の授業では、議論や調査、発表などを行う時間が随所に採り入れられています。個人ではなく学生同士のグループで課題に取り組む機会も多く、その課題も実際の社会問題に基づくものや、ビジネスの第一線にある企業などから提供された、具体的なものであることが少なくありません。
このようなアクティブラーニング型の授業には、学んだ知識やスキルの定着を促す効果があると言われています。ただ説明を聞くよりも深く、効率的に理解できるというわけですね。これだけでもメリットは大きいのですが、さらに重要なのが「ジェネリックスキル」の獲得に繋がるという点です。

自ら課題を設定する力、リサーチのスキル、チームで協働するためのコミュニケーション力やプロジェクトマネジメント力、論理的思考力、プレゼンテーションスキルなどなど……様々な場面で活用できる汎用的な能力が、ジェネリックスキルです。コミュニケーション・ツールとしての語学力や、ICT機器の活用技術なども、そのひとつと言って良いでしょう。

日本の企業は以前から、ジェネリックスキルを新卒採用活動の中で重視しています。日本経済団体連合会が企業会員に対して実施した、新卒採用に関するアンケート調査によれば、選考にあたって特に重視した点の1位は「コミュニケーション力」で、。なんと14年連続でトップです。続く「主体性」は8年連続で2位。そのほか協調性や課題解決力、リーダーシップなどが上位を占め、「専門性」は11位と、意外にもトップ10に入っていません(※1)。

こうした選考基準の背景には、たとえ自社の事業内容が変わっても正社員として雇用した者を簡単には解雇せず、社内の部署異動などで調整するという日本型の雇用スタイルもあると言われています。ともあれ、仮に4年生の春頃から本格的に就職活動を始めると考えた場合、それまでの3年間の、学びの質が大事になってきます。1年次からアクティブラーニング型の授業スタイルを積極的に取り入れている大学の学生ほど、就職活動で強みを発揮できるというわけですね。加えて、産業構造や働き方などがめまぐるしく変わる時代ですから、確かなジェネリックスキルは就職した後も、生涯にわたってキャリアを繋ぐ武器になるはずです。

アクティブラーニングの徹底度をチェックしよう

保護者が大学を見る際に意識したいのは、アクティブラーニングの徹底度です。アクティブラーニングは流行ワードですので、どの大学からでも、パンフレットを取り寄せればほぼ間違いなくこの言葉が載っているはず。ですが、アクティブなのは派手な目玉授業だけで、ほか大半の授業は大教室で一方的に話を聞く昔ながらのスタイルのまま……という大学も、実は少なくありません。オープンキャンパスなどで、アクティブラーニングの導入比率などを聞いてみるのも手と思います。

一般的に、大学の教員は「研究のプロ」です。これに加えてアクティブラーニング型の授業では、教育的な意図に基づいて議論やワークを設計し、運営するという「気づきや学びを引き出すプロ」としての能力が問われます。教員が授業の様子を学内外へ公開しており、改善と情報発信を続けているような大学は、この点について真摯だと言えそうです。

なお「ウチの子には、グループでの議論や発表なんて無理そう……」という声も聞こえてきそうですが、過度に心配しなくても大丈夫。アクティブラーニングは主体性が必要な授業でもありますが、それ以上に、主体性を育む授業です。最初から完璧に議論や発言ができる学生は、そう多くありません。教育活動の改善に熱心な大学ほど、授業中の課題や活動を吟味し、一段ずつステップを上がりながら着実に力を身に付けられるよう、授業やカリキュラムを設計しているはずです。オープンキャンパスをはじめとする高校生向けのイベントで、アクティブラーニング型授業の体験ができる大学もあります。こうしたプログラムに参加し、感触を試してみるのも良いでしょう。

学部・学科の名称と入試偏差値、キャンパスの立地などだけで志望校を決める高校生は少なくありません。でも、「どのような方法で教育を行っているか」という要素は、実は極めて重要なのです。高校の進路指導で、こうした点の比較検証を指導されているケースもありますが、そうでない可能性もあります。保護者の方からも、ぜひアドバイスをしてあげてください。


※1:日本経済団体連合会「2017年度新卒採用に関するアンケート調査結果」2017,11