SANNO SPORTS MANAGEMENT 2016年 Vol.9

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2016年 Vol.9 FEATURE「スポーツを魅せる」


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反面、同じ経験をしていてもそこから何も学び取れない者もいる。このことを踏まえ、松尾(2006)は、経験を通して学習・成長していくには、当事者が経験から学習する能力も必要であることを指摘し、「経験から学習する能力」を開発することの必要性を述べている。経験したことを学習へとつないでいく際、「経験学習モデル」(Kolb,1984)と呼ばれるサイクルを回していくことが有用とされる。これは、「経験」を通じて人が学習していくプロセスをモデル化したもので、図2のとおり、「経験→内省→概念化→実践」の4つの段階から構成される。学生に提示するショートプロジェクトのテーマ(課題)は、大学運動部の練習に支障がでないよう適切な配慮をしつつ、彼らにとって「適度に難しい」レベルに調整する。具体的には、大学生活や運動部での活動を題材とした、彼らにとって「身近な問題」を取り上げ、チームでその問題解決が図れるようなプロジェクトテーマを設定する。なお、プロジェクト活動を進める過程で、個々の学生がリーダーシップを発揮する際に土台となるプロジェクトマネジメントスキルや問題解決技法、論理的思考のスキル、コミュニケーションスキル等については随時研修を実施し、知識・スキルの獲得とプロジェクトでの活用を連動させていく。また、前述の通り、1つのプロジェクトが終わる度に、そのプロジェクト実践を通して得た経験を振り返る機会を設け、プロジェクト過程で個々の学生に「自分がリーダーシップをどの程度発揮できていたのか」を複数のディメンジョンからアセスメント(自己評価・他者評価)させるとともに、リーダーシップを効果的に発揮する上で必要となる教訓や知見を言語化させていく。図3はこうしたプログラム全体の骨子を図解化したものである。図2:経験学習モデルこのモデルでは、個人が、何らかの状況で様々な具体的経験をし、次に、その経験を振り返って内省・省察し、そこから教訓や自分なりの知見を紡ぎ出し(概念化)、その教訓や自分なりの知見をまた新たな状況で実践するというプロセスを継続的に繰り返すことが「学習」であるとしている。これを営業スタッフの事例で説明するならば、例えば、営業担当のAさんは顧客に新商品を説明するという実践を通して、様々な成功体験や失敗体験を積み(経験)、あるタイミングで「どのような時に商談が成功し、どのような時に失敗しているのか」など、その時々の経験を内省し(内省)、この内省の中から、効果的な商品説明方法に関する独自の仮説を作り(概念化)、その仮説に基づいた商品説明方法を新たな顧客に対して試行してみる(実践)というイメージになる。このプロセスにおいて最も重要なのは、「経験そのものよりも、経験を解釈して、そこからどのような法則や教訓を得たかということ」(松尾,2006,p.62)であり、個人の振り返りや内省を効果的に促す介入のあり方を検討することも必要となる。4.「リーダーシップ養成プログラム」の概要上述の通り、リーダーシップ開発においては、当事者が成長するための良質な経験の付与と当事者が「経験」から教訓や知見を導き出すための介入が必要となる。この点を踏まえ、現在構想中の「リーダーシップ養成プログラム」では、大学運動部学生のリーダーシップ開発に向けて有用と考えられる活動機会(ショートプロジェクト)を複数回提供するとともに、学生がプロジェクト活動を振り返る機会を設け、振り返り(内省)を通じて自分なりの教訓や知見を紡ぎ出すことを重視したいと考える。図3:構想中のリーダーシップ養成プログラムの骨子5.今後の課題本稿で述べた「リーダーシップ養成プログラム」案は、まだ大まかな方向性が整理された段階に過ぎない。今後、大学運動部学生のリーダーシップ開発のためにどのような経験をどのようなタイミングで付与することが効果的なのか、プロジェクト実践の振り返りの際に、どのような項目(ディメンジョン)でリーダーシップの発揮度合いをアセスメントさせるのかなど、検討すべき課題は多く残されており、2017年度は具体的なプログラムの検討とトライアルを目標に活動を進めていきたい。参考文献金井壽宏・古野庸一(2001)「「一皮むける経験」とリーダーシップ開発知的競争力の源泉としてのミドルの育成」『一橋ビジネスレビュー』季刊2001年SUM.49巻1号,pp.48-67,ダイヤモンド社.金井壽宏(2002)『仕事で「一皮むける」関経連「一皮むけた経験」に学ぶ』光文社新書.Kolb,D.A.(1984)ExperientialLearning:ExperienceastheSourceofLearningandDevelopment.NewJersey:Prentice-Hall.淵上克義(2009)「リーダーシップ研究の動向と課題」『組織科学』43(2),pp.4-15,白桃書房.松尾睦(2006)『経験からの学習プロフェッショナルへの成長プロセス』同文舘出版.(注1)http://www.mext.go.jp/sports/b_menu/shingi/005_index/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/06/13/1372051_02.pdf参照。20


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