SANNO SPORTS MANAGEMENT 2016年 Vol.9

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2016年 Vol.9 FEATURE「スポーツを魅せる」


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試合観戦前の取り組み試合観戦中の取り組み試合観戦後の取り組み試合に行ってみようという気持ちを喚起する。試合会場での取り組みを通じて、観客の満足を最大限に高め、興奮を維持する。試合観戦後のフォローを行い、リピートさせるきっかけを作る主な目的具体的な取り組み・強いチームづくり・試合会場の整備・事前プロモーション活動・ファンクラブの形成・HPの作成etc.・応援グッズの販売・試合前、ハーフタイム、試合後などでのショーやイベントの開催・フード、ドリンクの販売・ファンと選手の触れあい・BGMやMCなどによる盛り上げetc.・選手や監督からのメッセージ配信、HPでのフォロー・チケットやグッズプレゼントなど事後プロモーション活動ントetc.(1)試合観戦前の取り組みプロ・スポーツの運営サイドが試合観戦前に行う取り組みとしては、主に、会場設備の整備、強いチームづくり、事前プロモーション、ファンクラブの育成などの要素が考えられる。観戦において、先ず求められるのは試合の面白さである。とりわけ好きな選手の活躍や応援するチームの勝利が観客の満足を高めることは言うまでもない。その意味において、活躍する選手の育成・獲得と共に強いチームづくりを目指すことは不可欠の要素となる。次に、スタジアムや会場のハード・ソフトに関する諸要素も大きなテーマとなる。建物・施設としての機能はもちろんのことであるが、清掃の実施、会場の立地や最寄り駅からの案内の有無・内容、入場・退場の際の管理、会場運営などで不満を持つ観客は少なくない。会場のトイレの数や喫煙所など設備に対する不満や係員の接客態度などに関する不満もある。こうした課題について非常に評価の高い東京ディズニーリゾートは、キャスト(従業員)の教育を徹底することによって、接客技術(接遇技術)を高めるとともに、顧客(入園客)の不満を収集し、設備の改善に活かしている。スポーツの領域でもこうした心配りは必要であり、まだまだ他のエンターテインメント産業から学ぶべき点は多い。(2)試合観戦中の取り組み次に、試合会場に足を運んでくれた観客をいかに楽しませ、その満足度を高い水準で維持することを目的とした観戦当日の取り組みである。スタジアムでもアリーナでも共通して言えるのは、会場が閉鎖された空間であり、試合空間の提供側は自ら意図した演出を展開することができるという点である。重要なのは観客をいかにのせていくかということにある。ここでの具体的な取り組みとして挙げられるのは、試合の前後に行われるイベントや選手との触れ合いなどである。例えば、マスコットやチアリーダーの応援、サイン会や握手会、記念グッズ販売などは、コアなファンの形成に資するだけでなく、エンターテインメント力を高めることに繋がる。こうした演出の巧みさはアメリカのプロ・スポーツが際立っている。趣向を凝らしたイベント、十分に訓練されたチアのショーなど、レベルの高い演出が満載である。観客は、試合そのものに加え、会場に足を踏み入れることで、それに付随するさまざまな楽しみに対する期待も抱いている。スポーツ観戦は試合や競技だけで構成されているのではなく、それに付随する各種のエンターテインメントの集合体であることを強く意識する必要がある。(3)試合観戦後の取り組み最後に、試合観戦後に行うべき取り組みについて考えてみよう。観客数を安定的に確保するためには、より多くのリピーターの獲得が不可欠である。その為には、試合を観戦した時の気持ちを喚起し、また観に行こうという気持ちを起こさせる取り組みが必要となる。試合場で購入した応援グッズなどは、次の試合でも活用できるので、これもリピーター獲得の一翼を担っているといってよいが、より具体的には、試合会場の熱気と高揚感を思い起こさせ、チームとの一体感や親近感を感じさせ、次の試合に行くきっかけを与えることが重要なテーマとなる。例えば、チームがTV番組を提供し、選手からファンにメッセージを出したり、次回の試合の見所を紹介し直接ファンに呼びかけたり、イベント開催の告知を行うといったアプローチがこれにあたる。また、選手や試合について、ファン同士が語れるようなカフェやミュージアムなどを、チームが運営し、公認している場合もある。そこでは、過去の試合の名シーンが流れ、ファンが直接チームに意見を送り、それに対するコメントが返ってきたりする場も設けられている。最近では、登録しておくと、試合後に選手や監督から、PCや携帯などにメールが配信されるなどといったサービスを展開しているチームも少なくない。当然これらの試みは、次の観戦へと繋がることとなる。試合観戦時だけでなく、試合観戦前、試合観戦後の取り組みが連動し、正のスパイラルが生まれることによって、観客満足もそれに伴って高まっていくことになる。4.プロ・バスケットでのエンターテインメント戦略とその可能性プロ・スポーツはエンターテインメントであるが故に、コンサートやテーマパーク、映画や演劇などといった他のエンターテインメン卜産業と競合状態にある。さらに世界的にスポーツの観客動員数が頭打ちになっていることからも、プロ・スポーツにおけるエンターテインメント戦略の充実は不可欠である。既にわが国でもNPBやJリーグは徐々にではあるがそれを実践してきている。ファンサービスやイベントの充実は、プロ・スポーツの世界において、待ったなしの状況となっている。今季(2016-17シーズン)から始まったBリーグにおいても、こうした観客を巻き込む仕組みづくりは不可欠である。むしろ新リーグで注目を集め、盛り上がりを見せている今だからこそ、初めてバスケットを観戦した観客がリピーターになってくれるような仕組みや仕掛けが不可欠となる。ただでさえ、エンターテインメントが多様化し、スポーツ観戦にお金をかける顧客は限られており、これを他のスポーツや他のエンターテインメントから奪い取ることが出来るような戦略がなければBリーグの発展は望めない。Bリーグが、プロ・スポーツの一角として生き残っていけるか否かは、ここ2,3年の動きが勝負となる。バスケットボールの魅力を最大限に引き出すエンターテインメント戦略の開発が求められている。14


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