SANNO SPORTS MANAGEMENT 2016年 Vol.9

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2016年 Vol.9 FEATURE「スポーツを魅せる」


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05スポーツにおけるエンターテインメント戦略~Bリーグへの応用性近年、スポーツの観戦者数は、頭打ちの傾向にある。特に若年層のスポーツ離れは深刻で、IOCもすでに対策を取り始めている。スポーツ離れを防ぐ方法はいくつか考えられるが、そのキーワードの1つとなるのがエンターテインメントである。スポーツは元来、人々を楽しませる要素を持っているものである。この素材の魅力をさらに引き出し、観戦している顧客をいかに楽しませ、より高い満足につなげていくのか。本稿では、こうしたスポーツとエンターテインメン卜戦略の関わりについてそのポイントを整理し、今季開幕したBリーグへの応用可能性について考察する。経営学部准教授木村剛1.スポーツとエンターテインメントスポーツとエンターテインメントは、密接に結びついている。スポーツが生み出す歓喜は最高のエンターテインメントの1つであり、それはオリンピックやワールドカップの盛況ぶりを見ても明らかである。しかし、ここで取り上げたいのはスポーツ自体が持っているエンターテインメントの力ではなく、そのスポーツの魅力を最大限に引き出し、多くの観客を引きつけ、観客の満足度を向上させるための「エンターテインメント戦略」である。応援しているチームや個人の成績が良ければファンは満足するであろうが、それだけで観客の最大限の満足を引き出すことは難しい。試合会場に何度も足を運び、グッズを購入し、さらにはそのスポーツを自身でもやってみようと思わせるような工夫や仕掛けを含めたエンターテインメント戦略が求められている。換言すれば、これは観客を引きつけ、囲い込むマーケティング戦略に他ならない。いかに満足度を高め、その熱気を維持していくのか。それこそがプロ・スポーツが、ビジネスとして成立していくためのベースとなる。そこで本稿では特にプロ・スポーツにおける観客を引き付けるためのマーケティング戦略に焦点を当て、考察してみたい。2.MAZDAZoom-Zoomスタジアム広島プロ野球で2016年にリーグ制覇を果たした広島東洋カープは地元の熱狂的な応援で知られている。「カープ女子」という存在は流行語にもなった。しかし、こうした地元の熱狂は広島という球団が強かったから、または熱心な一部のファンが存在していたことで一方的に生み出されたものではない。歓喜や熱狂を増幅させ、盛り上げていく仕組みが、現在の人気を生み出してきた。ここで大きな役割を果たしてきたのが、「MAZDAZoom-Zoomスタジアム」である。このスタジアムは他の球場に先駆けて多くの工夫を施し、観客を引きつけることに成功した。旧広島市民球場の老朽化に伴い、2009年に竣工されたこの球場は、これまでの球場にはない、様々仕掛けが施されており、日本の「ボールパーク」の先駆けともなった。広島駅から歩いて10数分という立地にある同球場は、球場に向かう道すがら、現役選手の横断幕や過去に活躍した有名選手の記念プレートが並べられ、歩いて球場に向かうときも飽きさせない。入口に立つと、真っ赤な椅子が目に入ってくる。そこが満員になるとそこは特別な空間となり、それだけで来た人を圧倒する。その他にも、寝そべって野球を観13戦するシートや、BBQをしながら観戦できるシートなど変わったシートも準備されている。球場に併設されたスポーツジムからは、ランニングマシンに乗りながら球場を一望することも可能である。また外野の一部が切り取られたようなところがあり、走っている新幹線を見ることもできる。これらの工夫は全て計算されて作られたものであり、こうしたエンターテインメント性の高さが観客の高い満足につながっている。3.顧客を巻き込む仕組みづくり広島のこうした試みは、実は海外の多くの有名クラブやチームが行っていることでもある。では顧客の満足度を高め、熱狂的なリピーターを育成していくためにはどうすればよいのであろうか。ここでは、観客を囲い込み、リピーターに誘導するための施策について、試合の現場だけでなく、その前後の取り組みから整理してみよう。


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