SANNO SPORTS MANAGEMENT 2014年 Vol.7

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2014年 Vol.7 FEATURE「歩みの先へ」


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07地域振興におけるスポーツの役割-東北大震災に直面したプロ・バスケットの事例からの考察-経営学部准教授木村剛地域振興とスポーツ長く続いた景気の低迷を受けて、わが国のプロ・スポーツは徐々にではあるが衰退傾向にあるといってよい。これまでも本誌ではすでに述べてきたが、プロ野球(NPB)、Jリーグなどの一部のメジャー・スポーツを除いて、多くのスポーツ・カテゴリーで撤退や解散、縮小が相次いだ。その理由は我が国のプロ・スポーツの多くが、企業スポンサーの強力なサポートによって存続してきたからに他ならない。景気悪化→コスト削減要請→スポンサードの打ち切り・縮小→スポーツからの撤退・縮小という流れは、この20年間、日本のプロ・スポーツ界が直面してきた大きな潮流であった。[スポーツから撤退する企業]706050403020100604744333211961294291年92年93年94年95年96年97年98年99年00年01年02年03年出典:スポーツデザイン研究所調べより作図こうした状況の中で、多くのプロ・スポーツではその対策の1つとして「地域密着」を掲げ、これまで以上に、地元に貢献し地元の人々から愛されるチーム作りをすすめ、過度のスポンサー依存からの脱却を図ってきた。日本でも、Jリーグは設立当初から地域密着を志向しているし、プロ野球も、北海道に日本ハム、宮城県に楽天ゴールデンイーグルスが移転・設立されるなど全国に分散し、より地域色を明確に打ち出す傾向にある。元々、欧米のプロ・スポーツの多くは地域密着を強く志向してきた。チーム名に地域名を入れるだけでなく、地元にホームグラウンドやアリーナを作り、地元ファンとの関係性を高めていく。チームは地元の誇りであり、愛すべき対象となる。一言でいえば、強固な関係性(リレーションシップ)をベースにしたビジネスモデルの構築である。その意味で、この20年は日本のプロ・スポーツが、地域との関係性をいかに高めて、構15築していくべきなのかを真剣に考え始めた時期でもあった。そうした地域密着の取り組みを進めていく中で、大きな事件が起こった。東日本大震災である。震災以後、被災した東北地方を中心に体育館や球場の使用が困難になるといったハード面での影響はもちろんのこと、有力スポンサーが業務に支障をきたしてサポートが出来なくなり、スポンサーをやむを得ず降りてしまったところも多い。さらにソフト面に目を向けると、スポーツのようなイベントごとには、自粛ムードが根強くあり、たとえ再開できる環境が整っても、すぐに興行を再開する事は出来なかった。これは興行収入を主たる収益源とするプロ・スポーツにとっては死活問題である。こうした動きは被災した地域だけでなく、日本全国に波及した。コンサートなどの各種イベントはもちろんのこと、TVのバラエティ番組も再開するきっかけがつかめないまま、自粛を続ける状況がしばらく続いたことは記憶に新しい。震災から4年が経過した今、地域に対して、スポーツに何ができるのか、どのような役割を果たせるのか、それを総括しておくことには一定の意味があろう。そこで本報告では、この未曾有の危機に直面したbjリーグの2つのチームの対応や取組みの事例から、スポーツと地域振興のあり方について考察してみたい。最初に断わっておくと、今回取り上げた仙台89ERSと福島ファイヤーボンズは、異なるアプローチからスポーツを通じた地域貢献の可能性を示す事例である。以下、それぞれのチームの震災以後の対応について紹介する(注1)。宮城県は、今回の震災で最も被害を受けた地域の1つであることは言うまでもない。あれから4年が経過し、震災翌年からリーグに復帰したチームは、その後健全に運営されている。観客数については震災前の8割程度までに回復しているという。しかしその復活は容易なものではなく、一時は解散の危機に瀕していた。震災があったのは金曜日のことで、翌週末には試合が予定されていた。試合会場は避難場所には指定されていなかったものの、天井の一部が剥がれ落ちたり、スプリンクラーが作動して水浸しになったり、試合をできるような状況ではなかったという。その後、1週間を経ずに残りの公式戦全ての中止が決定し、チケット収入の道が絶たれた。そこで新聞各紙に取り上げられたのが、仙台89ERSの選手全員契約解除という衝撃的なニュースであった。収入の道が絶たれれば契約解除はやむをえないこととは言え、これは全国的に報道され大きな波紋を呼んだ。その当時の状況について仙台89ERS地域活動担当の川村氏は次のように語っている。「この措置は運営会社を残すために不可決な措置でした。どうにかしてチームを存続させたい。一度解散してしまえば、再び立ち上げるのはほぼ不可能です。いつか復活するため仙台89ERSの事例8


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