SANNO SPORTS MANAGEMENT 2010年 Vol.3

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2010年 Vol.3 FEATURE「湘南から世界へ」


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ルドカップの熱をうまく持続させることに成功したのである。池田宏アルビレックス新潟代表取締役会長は次のように語っている1)。「地域密着型のチームを成功させるためには、ヨーロッパと同じように地域住民から広く薄く支援して頂かなければならないことに気づきました」ヨーロッパのクラブチームのように、地域住民が家族ぐるみで、サポーターとしてクラブを支援する。これはJリーグが理想とする地域密着型のチームづくりでもある。「地域に1万組ぐらいのファミリーサポーターをつくる。そうすれば、スタジアムを満員にできるなと考えたのです」(同池田氏)こうした考えの下、新潟県のほぼ全域で地区後援会が組織された結果、サポーターの数は2010年3月2)現在、個人会員9,556人、法人会員1,074社を数えるまでに増えていった。「W杯ではベッカムも来ました。でも一番刺激的だったのは、アイルランドのサポーターでした。あれだけ楽しんで応援するというスタイルは、新潟の人たちにも大きな影響を及ぼしたと考えています」本場のサッカーの楽しみ方を新潟の人たちも経験したのであった。地域密着型を前面に掲げて成長してきたアルビレックス新潟の事例はJリーグの中だけでなく、他のプロ・スポーツからみても参考になるケースであるといえる。高松ファイブアローズの地域密着経営への挑戦bjリーグにおいて、現在、地域密着型経営への転換に懸命に取り組んでいるチームが高松ファイブアローズである。2010-11シーズン、高松はメインスポンサーの穴吹工務店の経営破綻を受け、突如チーム運営の危機に陥った。当初参加不可能と言われていたが、四国でのバスケットの火を消さないために、地元の企業10数社が名乗りを上げ、ようやく参加にこぎつけた。このようにメインスポンサー企業の破綻によって、突然チーム運営が窮地に陥るのはそれだけ、メインスポンサーへの依存度が高いことを意味している。だが、我が国において、その数は決して少なくない。このチームの再建を託されたのが、前中小企業庁の課長補佐を勤めていた星島郁洋氏である3)。なぜ、官僚であった星島氏が、bjリーグの経営を引き受けたのかについては、非常に興味深いが、これについてはテレビでも新聞でも多くのメディアで報道されているのでそちらを参照されたい。星島氏が社長に就任した当時、高松の負債は約5000万円であった。チームを運営しながら、負債を返済するために星島社長が積極的に取り組んだのが、前述のアルビレックス新潟のように地域密着型で広く浅く支援を募ることであった。結果として、星島社長が就任した時には1社しかなかったスポンサーは、2011年4月現在、ブースター法人会員などを含めると100社を超えるまでになった。負債はまだ増え続けているが、少しずつ復活への足がかりは見えてきた。2期連続で最下位となってしまったが、資金繰りがうまく回ってくることで、運営は安定し、次第に強いチームづくりが可能となる。今回の高松ファイブアローズの苦悩は、そのまま他のプロスポーツチームの課題としても当てはまる。もし高松が復活出来れば、今後、他のスポーツでも参考となるモデルケースとなりうる。地域密着かスポンサー重視か現在の環境を見る限り、とりわけbjリーグのような新興のプロ・スポーツが、メインスポンサー型から脱却し地域密着型経営を志向するのは正しい選択であるといえる。従来は明らかに企業スポンサーの比重が高く、このバランスを是正することは経営の安定化の面からも不可欠である。しかしながら、地域密着だけでは限界があることもまた事実である。当面は地域密着型の充実を図りながら、企業スポンサーの維持拡大を図るハイブリッド型の経営が望ましい。バランスの是正は重要であるが、企業スポンサーが入っていることのメリットも大きい。その意味で、企業がスポーツをサポートする新たな仕組みづくりが求められている。bjリーグを取り巻く環境は大きく変化している。まず2011年3月に起こった東日本大震災が、リーグ運営そのものを危うくする可能性がある。現に中心被災地である仙台89ersは、今季関東カンファレンスで上位に位置しながらも、震災から1週間もしないうちにコーチ、選手を全て解雇し、今シーズンの参加を取りやめた。この他、東京アパッチ、埼玉ブロンコスなども震災直後、早々に今シーズンの参加を取り止めており、財務基盤の脆弱性に起因するこうした動きが活発化すると、bjリーグの存続そのものが危うくなりかねない。次に、まだ具体的な計画は示されていないが、JBLとの統合を目的としたトップリーグの設立が決定している。トップリーグが出来たとき、bjリーグからどのチームが参入するのか、また、その後のbjリーグはどうなるのかはまだ不透明である。他方で、新規参入を希望するチームが多いのも事実である。今シーズンは島根スサノオマジック、秋田ノーザンハピネッツ、宮崎シャイニングサンズの3チームが新規参入し、来シーズンは信越ブレイブウォリアーズ、千葉ジェッツ、岩手ビックブルズ、横浜ビーコルセアーズの4チームの参入が決定している。こうした状況下でも新規参入が多い理由は、何よりも他のプロ・スポーツよりも、年間の運営費が比較的安いという点や、既存の体育館等の有効活用を図り、地域活性化の一助にしたいといった行政側の理由がある。bjリーグはまだ孵化期にある。今後安定したリーグ運営を目指すうえでも、こうした試練は超えていかなければならない。本研究では、こうした微妙なバランスの中で、bjリーグはどのような方向に向かっていくのかについて、さらに調査を進めていきたいと考えている。1)池田会長には2009年12月インタビューにご協力頂いた。ここで感謝の意を表したい。2)アルビレックス新潟公式HP(http://www.albirex.co.jp/)2011年3月調べ。3)星島社長には2011年3月にインタビューにご協力頂いた。ここで感謝の意を表したい。14


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