SANNO SPORTS MANAGEMENT 2009年 Vol.2

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2009年 Vol.2 FEATURE「産業能率大学 collaboration with 湘南ベルマーレ」


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ビジネス界の“輸入超過”を解消したい今、書店のビジネス書コーナーには、楽天イーグルス前監督・野村克也氏の本が平積みにされています。一方、スポーツ書コーナーには、ピーター・ドラッガーの本も、松下幸之助の本もありません。みなさんは「そんなのあたり前」と思うことでしょう。でも、私にはとても気になるのです。野村克也氏に限らず、スポーツの指導者たちは、ビジネス人材育成に役立つ多くの英知を提供しています。それ対して、人材育成研究者(私もその一員です)は、スポーツ選手の育成にどれほど貢献しているのでしょうか?残念ながら、「育成の知恵」について、ビジネス界はスポーツ界からの圧倒的な“輸入超過”です。「スポーツ分野にマネジメントを適用する」というわが研究所の理念に鑑みれば、書店のスポーツ書コーナーに「ビジネスに学ぶ選手育成」といったPOPが立つ日をめざして、新たな研究に挑戦すべきだ!人材育成研究者としてのそんな思いが、「考えるサッカー選手」の育成をめざすワークショップ(FootballIntelligenceBootCamp)の出発点となりました。選手育成と人材育成の接点を探るただ、「そうは言っても、スポーツとビジネスは違うもの」と誰もが思うはずです。一体どうすれば、人材育成研究をサッカー選手の育成に活かせるのでしょうか。そのヒントを探るには、両者の相違点ではなく、共通点に目を向けることが大切です。そこで、今回のプロジェクトでは、産業能率大学サッカー部監督・坂下博之氏へのインタビューを長期にわたり行い、以下のような言葉に潜む、近年の人材育成研究と“軌を一にする”考え方を見いだしました。「ミスしたプレーも、成功した良いプレーも、必ずその結果につながる要因がある。その要因をしっかりと把握できなければプレーの進歩はない。なぜ、うまくできたのか?なぜ、ミスを犯したのか?技術的課題、体力的課題、戦術的課題、精神的課題、その要因を分析し、より良いプレーを行うために解決すべき課題及びそのための練習方法を考える力が大切であり、その分析能力が低い選手は成長しない。」*1)「主体的に考える個人の育成」というビジョンこの言葉から、一流選手になるには、「技術・体力」だけでなく「考える力」の修得が不可欠というメッセージを読み取ることができます。そして、このメッセージには十分な説得力があります。しかし、近年の人材育成研究と“軌を一にする”のはこの点ではないことに注意が必要です。キーポイントは、「考える力」が「技術・体力」との対比ではなく、与えられたことをこなそうとする「受け身の姿勢」の対極に位置づけられていることです。「指導しない指導が大切」*2)と繰り返し強調する坂下監督にとって、「考える力の修得」とは、「考えるための知識を指導者が与えること」を意味しません。それは、選手自身が「主体的に学ぶ姿勢」を身につけることなのです。この点に気づくと、ビジネスとサッカーに共通する育成課題が見えてきます。それは「主体的に考える個人の育成」です。つまり、「教えられること」が学習(練習)であるという意識から脱却し、実践経験(プレー)から自ら学んでいく姿勢をもつ人材(選手)をいかに育成するかが、ビジネスとサッカーに共通する育成課題ということです。「経験からの学び」が求められる理由今、私が挙げた共通課題をみて、「主体的に学ぶ姿勢」よりも「直接役立つ知識」の方が重要ではないかと疑問に思う方がいるかもしれません。おそらく、1980年代以前の人材育成研究者なら、その疑問は正しいと答えるでしょう。しかし、今日の研究者の多くは、「主体的に学ぶ姿勢」を重視しています。その理由は、ビジネスで大きFootballIntelligenceBootCampの挑戦ー「考えるサッカー選手」の育成支援をめざしてー長岡健情報マネジメント学部教授0815


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