SANNO SPORTS MANAGEMENT 2009年 Vol.2

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2009年 Vol.2 FEATURE「産業能率大学 collaboration with 湘南ベルマーレ」


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3年目のテーマ「なつやすみのおもいで~あおぞら教室~」には、オリジナルのベースボールノートを配布し、試合前に球場前広場で行ったあおぞら教室(記者体験コーナー、レックダンス教室、ストラックアウトおよびぬり絵コーナー)を通じて子ども達にもっと野球の魅力を知ってもらい、もっと野球を好きになってもらおうという目的に基づいた、魅力訴求型イベントであった。また、3年目に子ども達がグラウンドに立てるイベント(親子始球式、子ども花道)を企画したのは、憧れの選手がプレーするグラウンドに立つことで野球に対する夢を膨らませることができ、野球の魅力向上につながると考えられた企画である。このテーマの変遷には、夏休みに行われる平塚球場での試合のメインターゲットが絞り込まれていった結果とであると言って良い。試合の視察や1年目に企画を実施してみると、熱心なシーレックスファンや応援団が見られたのと共に、観客席を所狭しと楽しそうに動き回る子ども達の姿が目に付いた。この子ども達は、球団が地域の少年野球チームを招待して試合開始前にシートノックを受けた選手や、イニング終了時に行われるスタンドへの試合球投げ入れなどのサービスを心待ちにしている子ども達であった。その一方で、いわゆる大人たちは、自分達の観戦の楽しみ方をすでに見出しており、イベントへの参加は反応が薄いように感じられた。そこで、企画を重ねていくうちに子どもや親子をメインターゲットにおいたテーマが中心となっていったのである。2)この授業を通じての学生の気づき第1に、この授業を受講した多くの学生が実感している気づきは、現場で働く人たちとの物事の判断基準の違いである。学生が、これで何とかなるであろうと考え本番に臨むと、上手くいかない場面が多くある。もちろん、こうした判断基準の相違は、現場が混乱したケースや観客からのクレームを受けたケースなどの経験知の違いと言っても過言ではないだろう。マニュアルの読み合わせでは、現場の担当者から、「このケースにはどう対応するのか」とか「こういう解釈もできるのではないか」などと鋭い質問が矢継ぎ早に飛んでくる。すると深く考えていなかった学生は、何の説明もできなく一蹴されてしまう。打ち合わせの段階での指摘はまだ救われているのであるが、イベント当日に、想定外の事態が発生した時に何もできなかった学生の強張った表情はいまでも目に焼き付いている。こうした体験から、物事を多面的に判断することの大切さと経験を次の機会に繋げていくことの大切さをこの授業を通じて学んでいると考えられる。第2に、学生たちは自分たちのスケジュール調整力の甘さに気づいたようである。学生達は、期日までに自分の手元を仕事が離れれば良いと考えがちであるが、その後に球団、球場そして警備を始めとする関係各所の確認を得る時間を想定していない。これは、段取り力と言ってもよさそうであるが、学生達は仕事の手順を確認することなく進めていくので、後から作業内容が増え、期日内に終わらせることができなくなるケースが目立った。結果的に、後日に授業時間以外の補習が必要となり、球場や試合の視察の際に、何の課題もなくただ現場を漠然と眺めていたことを後悔する瞬間でもある。学生は、仕事の全容を把握し、必要な手順とキーパーソンを確認して仕事を進めることの大切さを学んでいるようであった。第3に、球場で働く人たちが、どれほど試合を大切にしているかという思いに気づいたようである。観戦イベントは、試合そのものがあって初めて成り立つものであって、決して主役ではない。したがって、観戦イベントの不備によって試合の雰囲気が壊れるようなケースでは、容赦なく厳しい言葉が飛んでくる。大学生活の中では、大目に見られるケースでも、プロの現場に漂う独特の緊張感の中では決して許されない。学生達は、そこに自分達との立ち位置の違い、すなわちプロとしてのプライドを感じたに違いない。この点は、将来的に進路を決定する学生が、働くことの意味について身を持って見聞きできる貴重な機会である。3)今後の展開以上、学生の気づきを思いつくままに列挙してみたが、この授業に参加してみての学生達の満足度は高いように思われる。それは、自分たちの様々な反省点がありながらも、予想に反してここまで出来たという達成感から湧き起る感情であると思われる。そして、気づきと達成感のバランスをどう調整するかが、担当者の苦心するところでもある。今後も履修学生の特性を考慮しながら、適切な指導を心掛けていかなくてはならない。この3年間に観戦イベントの創出という意味では、実行し得るパターンは出揃ったように思われる。今後は、新たなイベントの創出も大切な要素ではあるが、例えば、スポーツマーケティング的要素を取り入れ、観客の求める便益を充足するのと同時に、野球の魅力を高めるために企画者からのメッセージを発信しスポーツ観戦の価値を高めるなど、マネジメントやITに関する知識の活用をより意識させながらイベントの企画や実践を行い、学生達の目標達成が実現できるような指導内容の構築について検討していくことが望まれる。※本授業に関しては、フジテレビジョン、テレビ神奈川、湘南ケーブルネットワークおよび読売新聞社などから取材を受け、その内容が放映あるいは掲載されています。12


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