SANNO SPORTS MANAGEMENT 2018年 Vol.11

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2018年 Vol.11 VICTORY「勝利」


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091.はじめにメンタルコンディショニングとパフォーマンス情報マネジメント学部准教授椎野睦スポーツや武道の世界では「心・技・体」という言葉をよく耳にする。それはスポーツにおいて“こころ”“ぎじゅつ”“からだ”が重要であるということを意味すると考えられる。近年では横浜DeNAベイスターズのラミレス監督(2018)は「野球の7割はメンタルで、3割がフィジカル」とメンタルのコンディショグの重要性を提唱している。それは技術を遺憾なく発揮し、ケガを防止する上でも心構えや心理的な洞察と気づき、そしてコントロールが重要であることを意味していると考えられる。つまり、「技・体」を効果的かつ健全に活かすためにもメンタルのマネジメントは極めて重要であると考えられる。2.目的アスリートが遺憾なくその実力を発揮するためにはプレッシャーによるネガティブな心理的影響をどれだけ軽減できるかが重要であると考えられる。また、そのネガティブと捉えられがちなプレッシャーを転じてポジティブなものとすることができれば、メンタルをマネジメントすることの意義は大きいと考えられる。そこで本研究では、「観客からの否定的な発言(いわゆる野次)」がアスリートのパフォーマンスにどのような影響をもたらし、また介在する変数としての心理はどのような機能と役割を果たすのかを検討した。尚、本研究は学生教育の一環として椎野ゼミ4期生である田中美久、佐藤響、守屋魁人、小林皐稀を中心としたアスリート研究チームと共に行った。3.方法プレッシャー状態の測定として、本研究では唾液に含まれる消化酵素の1つであるαアミラーゼを測定した。測定にはニプロ株式会社の『唾液アミラーゼモニター』を使用した。本機器は専用チップを舌下に挿入し唾液を浸み込ませ、採取したチップを本体に挿入し、約60秒後には唾液中のアミラーゼ活性がKIU/Lの単位で表示される。測定結果は、「0〜30:ストレスなし」「31〜45:ストレスややあり」「46〜60:ストレスあり」「61以上:ストレスがかなりある」という基準となっている。尚、本機器は広く研究一般で活用されている物であり、侵襲性の低い測定機器である。本測定をオーディエンスのいない「ノンプレッシャー状態」と、野次を放つオーディエンスがいる「プレッシャー状態」で測定した。またパフォーマンスの測定としては、「注意力」「集中力」等の総合的な能力を測定するため、ジェンガを用いて、その成績(1分間にジェンガタワーを崩さず何本のブロックを抜き取ることができたか)とプレッシャーとの関係性を考察した。22さらに、その背景にあると推察される性格要因を測定するために、KT性格検査(KretschmerTypePersonalityInventory)を使用して性格要因を測定した。実験参加者は20名のスポーツ経験豊富な男子大学生であった。4.結果と考察結果として、αアミラーゼの高低とパフォーマンスの有意な差異は伺われず、その直接的な関係性は認められなかった。しかし「FAUL(ジェンガタワーを崩壊させてしまった)」となった最下位2人と、20名中2位と3位であった者、すなわち成績下位者と成績上位者との間に興味深い性格的要因が見出された。まず、KT性格検査をもとに図1のような4象限を想定した。まずFAULとなった2人は上記4象限において①に位置づけられた。一方、成績上位者であった2人は④に位置づけられた(尚、最優秀者は②であった)。この結果から、KT性格検査に則して考察すると「自己抑制」「繊細」といった性格要因は環境の刺激に対してネガティブな影響が生じやすく、プレッシャーに弱い性格要因であるということが推察される。一方、「自己解放」「信念確信」といった性格要因は環境の刺激に対してネガティブな影響を生じさせにくく、プレッシャーに強い性格であるということが示された。本研究の結果から、環境からの刺激に対するプレッシャー認知については性格要因が影響を及ぼしていることが推察された。今後の展望および課題として、アスリートのパフォーマンスに影響を及ぼす一層精緻な心的要因の明確化が求められる。そして、その心的要因とバイタルコンディションとの関係性を明らかにし、そのコントロールを行うことができることは有意義であると考えられる。


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