Annual Report Vol.2


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今後のコンテンツビジネスに関する展望人工知能(AI)や機械学習というキーワードが世間を賑わせています。今年だけでも、グーグル・ディープマインド社が開発したアルファ碁がプロ棋士に勝利し、マイクロソフトや大学等のプロジェクトで、レンブラントの過去作品を学習して生成されたレンブラントの「新作」絵画が発表されました。AIが生み出す表現物については、一般的に日本の著作権法の解釈では著作権が発生しないとされています。これは、AI創作物は著作権の保護対象となる著作物の定義「思想またか感情を創作的に表現したもの」に当てはまらないためです。(ただし、AIを道具として活用して人が創作を行った場合、創作物は著作権で保護される余地があります。)今後は音楽や小説などがAIで創作され、市場で流通する可能性があるといわれています。そのような時代が到来した場合、消費者としては選択の幅が広がる反面、クリエイターはAI創作物との競争に晒されることになります。また、権利保護の観点でいえば、外形上同じような表現物が、かたや著作権で保護され、かたや全く保護されないという扱いとなり、流通の際の契約や無断使用された場合の対抗措置に差がでてきてしまいます。そのような問題意識のもと、今年5月9日に政府の知的財産戦略本部で決定された「知的財産推進計画2016」には、「AI創作物に対する保護の必要性・可能性や、AI創作物が既存の知財制度に与える影響など、AI創作物の出現に対応する知財システムの在り方について、検討を進めていくことが必要である。」と言及されています。AI創作物に法的保護を与えることが是認された場合は、おそらくは著作権とは別の新たな権利で保護されることになると思われます。AIについてはさまざまな議論があり、極北としては「AIは人類を滅ぼすのか」といったものもありますが、クリエイティブの場面においても留意しなければならない時代がやってきているのではないでしょうか。研究所の客員研究員に、それぞれの専門分野から、これからのコンテンツビジネスについて語ってもらいました(掲載は執筆者の50音順です)。AIと知的財産権一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会事務統括部リーダー太田輝仁時間を贅沢に使うことへの「回帰」エイベックス・ピクチャーズ株式会社映像制作部部長兼映像制作課課長穀田正仁普段から映画に関わる仕事も多い中、今更ながら先日ふとしたことに気が付いた。映画は大抵2時間前後。自分のスケジュールとにらめっこしながら上映時間に合わせて映画館に向かい、周りの迷惑になるから携帯はオフ。LINEやメールも鳴らない中、周囲も映画以外は真っ暗なので上映中は映画の世界に陶酔することができる。現代はテレビもスマホも自分の都合のよい隙間の時間で楽しむ「タイムシフト」的環境が蔓延している時代に、映画館へ映画を見に行く一連の行動パターンは、なんて希少で贅沢な時間の使い方だと。テレビでも動画配信でも残念ながら必ず周りに何か余計なものが視界に入る。何にも誰からも邪魔されない空間は映画館以外では成し得ないのだ。若年層向けの映画が昨今増加傾向にあるが、映画館の優位性につながる要因がいくつか起因する。映画館は好みの作品を選択している時点で、館内で興味がある程度一致している集合体が形成され、居心地の良さを共有することができる空間といえる。音楽業界で増えている「フェス」と呼ばれる野外イベントなども原理は一緒だと考える。また作風的に「泣く、笑う、驚く」といった感情の琴線に訴える度合いが少し強めの企画が選定されているように思うが、いわゆる映画館で映画を見る行為そのものが「入場料を支払って2時間楽しめる」、つまりは「アトラクション」として捉えられているきらいもある。観光産業に目を向けると、全国のローカル線で「観光列車」と呼ばれる特別列車が話題だ。著名なところではJR九州「ななつ星」がスイートルームもあるような豪華列車で非常に高額なツアー代金であったりするものもあれば、長野のしなの鉄道や京都の京都丹後鉄道(丹鉄)などで展開されている地元食材を味わうことができるレストラン列車なども予約が取りにくい状態が続く人気だ。一見ブームのような感覚にもなるが、要素を分解していくと人口層が高年齢化が進む中で、一時期「速さ」「時間短縮」が最重要とされてきた時代から「あえて時間をつかう」「プチ贅沢をして、少し背伸びした空間に費用をかける」といったことが再度見直されてきていることにつながる。「わざわ24Content Business Research Center Annual Report Vol. 2


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