SANNO SPORTS MANAGEMENT 2013年 Vol.6

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2013年 Vol.6 FEATURE「発展への課題」


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本研究所が主体となって実施したオリンピック関連調査は、2008年夏季の北京オリンピックに始まり、2010年冬季のバンクーバー、2012年夏季のロンドン、そして今回のソチで4度目を数える。これまでは純粋な“事実”のみを結果として公表していたが、今回は初めて“予測”という無謀ともいえるチャレンジを行った。その結果は上述のように反省点の多いものとなったが、改善の糸口が見つかったことは大きな収穫である。2016年夏季のリオデジャネイロ、2018年冬季の平昌(ピョンチャン)と改良を重ね、予測精度の向上を目指していきたい。春高バレー調査からの「タレント発掘」二つ目の事例は、「女子ビーチバレーの“金の卵”発掘」を意図して実施した、高校女子バレーボールの強豪校に関する調査である。この調査もインターネットを利用し、2014年3月7日から3月15日にかけて、全国1万人を対象に実施した※4。回答者がわかりやすいように「来年の春高バレー※5出場校予想」と題し、居住地の代表候補を3校まで挙げてもらった。「※順当な高校に加え、台風の目”となりそうな高校も、ぜひお考えください」と注記し、その理由として表3の20項目の中から該当する項目にチェックを入れてもらった。この結果の活用法について、「北海道」の結果(表4)を例に説明する。多くの票が集まる上位校はインドアの名門校であり、有望な選手が多く所属するが、進路となる強豪大学/実業団とのパイプが太いため、ビーチバレーに転向を促すのは容易ではない。しかし下位の高校ではその縛りが弱く、またチームとしては中堅にとどまるものの、突出した能力を有する個人選手が存在する可能性があり、彼女たちならば本学の女子ビーチバレー部に“一本釣り”できなくもない。個人情報保護の観点から個人名までは聞いていないが、例示した北海道同様、47都道府県において同様の構造を得ることに成功している。この情報を効果的に活用すれば、現地の大会に赴かずに「地方の埋もれた有望選手」をスカウトできる可能性がある。また汎用性も高く、「甲子園とは無縁の有望高校球児を発見する」等、他のスポーツへの応用も期待できよう。表4.春高バレー2015女子北海道代表校予想順位高校名13457札幌大谷札幌山の手旭川実業東海大四帯広南商業とわの森三愛札幌新川札幌北斗札幌南七飯野幌函館大学附属柏稜北星学園大学付属票数2727217331111111表3.春高バレー2015の女子都道府県代表候補に挙げた理由伝統・環境面選手・技術面•••••伝統校だから近年代表に選ばれているから最近強化に力を入れているから設備等の環境が良いから部員人数が多いから練習・采配面•••••練習が厳しいから生徒の自主性に任せているから監督にカリスマ性があるから監督の采配が優れているから戦術がユニークだから••••••••チームワークが良いからサーブが上手いからレシーブが上手いからトスが上手いからスパイクが上手いからブロックが上手いから抜群に技術の高い選手がいるから抜群に高身長選手がいるからその他••その他+自由記述理由は特にない/わからないかつてないスカウティング手法川合庶日本ビーチバレー連盟副理事長湘南ベルマーレビーチバレーチームゼネラルマネージャー産業能率大学女子ビーチバレー部ヘッドコーチ「春高バレー調査」のフレームワークの背景には、本学女子ビーチバレー部における石田アンジェラの成功がある。JBVツアーアワード2013においてMVPに輝いた彼女だが、出身校自体は強豪校ではなく、上位校が対戦する際に「審判」を割り振られる下位校であった。都大会決勝で彼女が審判をしておらず、その長身に目が留まらなかったら、私が彼女に声をかけることもなかっただろう。この経験が示すように、チームとしての総合力は低くとも、抜群の才能を有する個人選手は少なからず存在する。しかし、すべての地方大会にまで足を運ぶことは不可能であるし、知人を通じて得られる情報にも限界がある。広範な社会調査をもとに「隠れた“金の卵”」の目星を付けることができるこの手法は、これまでにない画期的なアイディアであり、本学女子ビーチバレー部のスカウト活動に大いに活用していきたい。※1JamesSurowiecki(2004),RandomHouse,Inc.邦訳版は小髙尚子(2006),角川書店。※2「ソチ五輪の選手と競技に関する調査(五輪開催前速報)」,2014年2月4日,産業能率大学スポーツマネジメント研究所,http://www.sanno.ac.jp/research/gorin2014_1.html※3ソチ五輪事前調査の回答者2万人の構成は、20代・30代・40代・50代・60代それぞれ4,000人ずつの男女同数である。※4春高バレー調査に際しては、あらかじめスクリーニングを行っている。具体的には同世代の高校生男女、高校生の母親である確率の高い36~55歳女性、および、高校時代にバレーボール部に所属していた人々から成る1万人である。※5「春高バレー」は愛称であり、正式な大会名は「全日本バレーボール高等学校選手権大会」である。18


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