SANNO SPORTS MANAGEMENT 2012年 Vol.5

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2012年 Vol.5 FEATURE「Next Stage」


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さらにバスケットボール独自の問題点として、世界と勝負する姿が消費者に見えにくいことである。サッカーにはワールドカップ、野球にはWBCがある。同じ室内球技でもバレーボールはワールドカップがあり、オリンピックなどでも世界と戦っている姿を観客に見せている。さらに根本的な課題として、エンターテインメントとしての育成が遅れているという点が挙げられる。これはバスケット界の組織的な問題に起因しているといってよい。日本最高峰のリーグがJBLとbjという2つのリーグに分裂している状況は好ましいものではない。これらの諸点から、bjリーグの現状について客観的に判断してみると、TV中継され、放映権収入があれば話は別だが、デメリットの方が大きく上回っていると言わざるを得ない。基軸となる顧客満足の最大化とリレーションシップの構築但し、中学、高校、大学での部活動において、バスケットボールはトップクラスの人気を持つスポーツであり、そのポテンシャルは高い。コアブースターを育成し、その面白さをうまく伝えていくことが出来れば、厳しい競争環境の中でも一定の地位を確保することは不可能ではない。アリーナビジネスの根幹となるのは、3000人~4000人をいかに継続的、安定的に集め続けるかという点である。逆を言えば、バスケットでは、野球やサッカーのように一試合で何万人もの観客は必要ない。3年~5年後をめどに、安定した観客数を確保するためには一定以上のコアブースターを育成し、何度も試合会場に足を運んでもらう状況をつくり出す。そうした状況に近づけていくことが重要となる。こうした現状での環境認識を踏まえ、産業能率大学では2011シーズンよりbjリーグに新規参入したbjリーグ横浜ビーコルセアーズと協力し、顧客の実態把握と、顧客満足の向上を図り、コアブースターを育成するための調査を行うこととなった。第1フェーズ第1フェーズ第2フェーズ第2フェーズコア・ブースターを中心とした観客意識調査観客層の幅を広げた観客意識調査bjリーグにおけるマーケティング戦略の検討(11-12シーズン)•観客の基礎データ収集(12-13シーズン)•継続したアンケートデータ収集(来シーズン以降)•顧客満足向上に向けた取り組み•特に、観客の印象などについて詳細に調査•昨シーズンデータとの比較•サービス向上に関する質問項目追加図1研究のフレームワーク•bj他チームへのインタビュー•他のスポーツとの比較分析今回の調査は2011-12シーズンに実施されたもので、インターンシップに参加した本学学生が、観客を対象にアンケート調査を実施した。最終有効サンプル数は518であった。この調査は2012-13シーズンも継続して行われており、今後も数年間にわたって実行する予定である。図表1に示したように、こうした継続的な調査を通じて、bjリーグの試合を見に来てくれる観客がどのような経緯で試合観戦に訪れたのか、どこから来たのか、そして試合を見に来てどう感じたのかといった基礎的なデータを収集し、初期から観戦してくれている、バスケットボールに興味をもっている観客の満足度を徹底的に高め、コアブースターの育成を図る。bjリーグにおいて、毎試合3000名の有料顧客(チケットを購入して身に来てくれる観客)を集めることは極めて難しい課題であるが、すでにこの目標を達成しているのが沖縄を地元とする琉球ゴールデンキングスである。琉球はここ3シーズンで2度のリーグチャンピオンシップを獲得しているが、ただ強いから観客が増えたというわけではない。実際にインタビューでお話を伺ってみると、顧客満足度を最大限にまで高め、その満足水準を常に維持する仕組みづくりを実施してきた結果が、現在の集客に結びついていた。むろん、沖縄のやり方をそのまま実施してもうまくいくわけではないが、琉球の成功は、最高度の観客満足を創出することが、bjリーグの経営安定化に寄与することの証左でもある。調査結果からの示唆ではまず3年間で、コアブースターを1000人育成するために、顧客満足度を徹底的に高めるためにはいかなる戦略が必要なのであろうか。アンケート結果の詳細は、本研究所のHP等で別途公開する予定であるが、ここでは紙面の都合もあるので、主な示唆のみを簡単に説明しておきたい。都道府県その他0%茨城県0%埼玉1%秋田1%島根1%栃木1%兵庫0%東京7%千葉2%静岡1%年代50代3%60代2%70代2%40代22%10代31%30代23%20代17%神奈川86%性別観戦回数女性41%男性59%5回5%14回0%4回6%3回7%2回26%図2調査結果1回56%観客属性を見ると地元が横浜ということもあり、神奈川県在住の方が86%と圧倒的多数を占めた。年代的には予想通り、30代までの比較的に若い層が、全体の約70%を占めているが、性別では男性が約60%と多数を占めているものの、当初予測していたより女性が多い結果がみられた。アンケートの結果で最も特徴的だったのは、初めて観戦に訪れた人が56%、2回目と合わせると約82%と圧倒的に多いことであった。また感想の中で最も多かったのは、初めて見たが楽しかった」「地元なので応援していきたい」「また観戦したい」といったタイプの意見であった。徹底した地元密着を行い、これらの観客をブースターに深化させることが出来れば、3000人を常時集めるビジネスモデルの構築は決して夢ではない。そのために、観客が満足して、試合会場を後にすることが出来るような空間を生み出すさらなる創意工夫が求められている。18


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