SANNO SPORTS MANAGEMENT 2008年 Vol.1

SANNO SPORTS MANAGEMENT 2008年 Vol.1 FEATURE「ビーチバレー」


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この課題に対してモデルとしたいのは、ビーチバレージャパン第1回大会の仕掛人ともいえる、当時の日本バレーボール協会会長・松平康隆氏の手法である。松平氏は、全国から長身の選手を集めてユニークな練習法で鍛え上げ、「一人時間差」等の独自の攻撃スタイルを編み出し、ミュンヘンオリンピック(1972)における金メダルとして結実させた名監督であるばかりでなく、その柔軟な発想で、女性向けアイドル雑誌に選手を露出させたり、アニメと実写を組み合わせたテレビ番組制作に協力するなど、今でいう“メディアミックス”を先取りした、数々の驚くべきプロモーションを展開した人物である。その戦略をお手本に、ビーチバレーも、人気と実力、どちらかに偏ることなく、その両方を兼ね備えたスポーツに発展させるための戦略を講じていかなくてはならないと考えている。「エンターテイメント」×「レクリエーション」の課題日本のビーチバレーは、2000年のシドニーオリンピックで4位入賞者まで輩出しているにも関わらず、一般の人からはなおも真顔で「ボールはスイカ柄なんですか?」とか「風が吹いたら飛ばされて大変ですね」と言われる状況に我々はショックを隠しきれなかったことがある。そのような誤解を解くためには、何よりも認知度を高めることが早急の課題であることは間違いなく、そのために何が必要かを川合俊一氏らと考えた。そして「スター性のある選手を育てる」という方針を立て、全国高校バレーボール選抜優勝大会(春高バレー)で将来有望と思われた選手をスカウトして強化した。その戦略が功を奏し、今では別段説明が要らないまでにビーチバレーが日本社会に浸透してきている。しかし、スポーツに関心のなかった人たちの関心を喚起できた半面、バズーカのようなカメラを持参し至近距離から撮影するファンも現れた。選手たちがプレーしづらくなることはもちろん、「ビーチバレー=ビキニ」といったイメージが先行してしまうと、一般の人たちがやりづらくなってしまい、「ママさんビーチバレー」のような広がりが難しくなってしまうという課題が出てきている。そこで現在日本ビーチバレー連盟では、マスコミ関係者以外のカメラ撮影を禁止するルールを設けている。また、プロツアー以外ではユニフォームに関する規定も緩め、一般の方々がレクリエーションとしても気軽に大会に参加し、砂浜で純粋にビーチバレーを楽しめるような環境作りを進めている。「レクリエーション」×「オリンピック種目」の課題“余暇”としてのビーチバレーと、最高峰の大会であるオリンピックとは、別次元の話のように感じられるかもしれないが、我々は地続きであると考えている。競技人口の増加が競技としてのレベル向上に不可欠なことは、サッカーなど、他の競技の例を見ても明らかだからである。三つ目の課題とは、多くのバレーボール愛好者が存在するにも関わらず、なぜビーチバレーにはなかなか参入してこないのか、そのボトルネックを探り、解決策を見出すことである。23forTheFuture結論からいってしまえば、バレーボールとビーチバレーは、似て非なる競技だという点がネックと思われる。風でボールの軌道が微妙に変化し、砂に足を取られるといった違いもあるが、一番大きいのは人数の違いである。日本には独特のバレーボール文化があり、現在でも国際大会で主流の6人制よりも9人制の方が競技人口が多いという特異性がある。その例にならい、日本独自の「4人制ビーチバレー」の普及に今後、努めていく予定である。趣味としてバレーボールをやっている愛好者の中には2メートル近い身長の選手がいる。また、バレーボールではアタッカーとブロッカーが中心選手となる傾向が強いが、ビーチバレーでは、セッターやリベロのような、繊細さや器用さに裏打ちされた緻密なプレーが物をいうことを考えれば、バレーボールでは実業団に入れなかった選手の中にも、ビーチバレーではオリンピックを目指せる素質をもった選手が埋もれている可能性が十分にあると考えられる。2人制への“入口”となる4人制ビーチバレーがもっと活発に行われるようになれば、そういった選手が頭角を現すチャンスも高まるに違いないであろう。ビーチバレーの明るい未来に向けて以上、ビーチバレーの3要素と対立関係に対する処方箋について論じてきた。すべてに共通していえることは、自らがプレーするにせよ、観戦するにせよ、ビーチバレーに興味を持つ人口をいかに増やしていくかが今後の焦点だという点である。その実現に向けては、将来を担うべき若年層の強化と、全国展開を目指していく方針である。前者については、幸運にも産業能率大学から、国内最上級の学内コートで練習可能な女子ビーチバレー部のヘッドコーチに招聘され、有望な大学生選手を指導する機会を得ている。また、そのコートに小学生を集めたビーチバレー教室も、湘南ベルマーレとの提携で開講し、ビーチバレーの普及、強化活動を進めている。後者については、鵠沼や平塚といった神奈川県内に、ビーチバレーの拠点が一極集中している現状を、必ずしも最良の状態だとは思ってはいない。一流の選手が全国に散らばってプロチームがたくさんでき、各地方においても、常日頃からトップ選手のプレーに身近に接することのできる環境が増えれば、ビーチバレーがスポーツ文化として、より根付いていくと思われるからである。以上のプロジェクトを、連盟をはじめビーチバレー関係者が一丸となって進めていけば、必ずや我が国においてもビーチバレーの明るい未来が拓けるものと確信している。7


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