Annual Report Vol.2


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■第3回「ブランディングを支える広告およびイベントコミュニケーション」株式会社JTBコミュニケーションズイベントコミュニケーション局局長の中山隆一氏をお招きし、ブランドを広め価値を高めるためのブランド戦略の実際を、広告およびイベントコミュニケーションという2つの視点から解説していただいた。まず、この20年間で情報量の増加のみならず、技術の高度化や消費者ニーズの変化に伴いメディアが多様化し、情報伝達の手法も変容している点を説明いただいた。次に、企業ブランドランキングを用いて、「お客様の視点でブランド価値を高める」ことの重要性や、サービスや企業活動そのものなど、有形無形にかかわらずあらゆるものがブランディング価値を形成する要素であると説明いただいた。ブランド価値を高める戦略として、自分たちは「何者」で「何をお客様と約束」し、「どこに向かっていく」のかを明らかにすることが大切である。そして、進路を明らかにし、広告のブランドスローガンとして訴求するためには、自社内部と外部で調査が必要であり、課題や資源を発見し整理する行程を経て、自社の事業領域、事業目的、社会的存在意義を明文化する作業から始める。このブランドスローガンは時代と共に変化しており、以前は、「会社本位」のスローガンだったが、会社本位から「お客様本位」に変化し、現在では、豊かな社会の実現のための「社会本位」のスローガンが多いという。イベントにおけるブランド・コミュニケーションでは、ブランド(企業)イメージや理念をイベントにいかに具体的に投影するかがポイントとなる。例えば、司会者の選定も企業のブランドイメージに沿って決定するのだ。具体的な事例紹介を交えて、会場の選定から会場の設営、プログラムコンテンツなど細部までブランドイメージを考慮して計画、実践されている事実を知ることができた。最後に企業のブランド価値を高めていくことは益々重要であり、あらゆるシーンにおいて主導権は消費者にあり、その選択肢は広いこと、ブランドが支持されるためには機能的差別化と情緒的差別化に加えて、コンプライアンスによる差別化の重要性が必要になっているということ、さらに、今後は機能重視の時代からユーザーの心に訴えかける時代が来るということを示唆いただいた。講義終了後、聴講した学生からはテーマに関連する多くの質問が出され、観光領域、広告・イベント分野に関する関心の高さがうかがわれた。■第4回「地方創生と地域のブランド組成を考えるメディアラグ株式会社代表取締役、また、本研究所客員研究員でもある藤井雅俊氏をお招きし、「地方創生と地域のブランド組成を考える」というテーマでご講義をいただいた。藤井氏は、経済産業省/内閣府「まち・ひと・しごと創生本部」が2015年4月にリリースした「RESAS」(地域経済分析システム)にプロデューサーとして深く関わられており、昨今では、地域行政施策支援・地域観光施策での地域活性化、グローバル化(インバウンド&アウトバウンド)、またこれに伴う、人材育成、企業支援等の分野で活躍されている。今回は、「地域が地域財産を見つけ、自分たちの価値を理解し、自らが情報発信し、地域が自らの経済活動を活性化し、SNSなどの顧客と繋がるビジネスを目指した分析・マーケティング施■第5回「Vision-OutBranding(ビジョンアウトブランディング)」なぜ、その企業は存在するのか2015年度のシリーズ講座の締めくくりは、グーグル株式会社プロダクトマーケティングマネージャーの村口賢一郎氏をお招きしご講演いただいた。村口氏はIT系コンサルティング会社から外資系広告会社、そしてB2Bのグローバル企業など多彩なキャリアを経られた後にグーグルジャパンに入社された。現在は、B2C市場を対象とするプロダクトマーケティングとブランディングの革新に取り組まれている。今回のテーマは、まさに「ブランドの未来」という今年のシリーズテーマにぴったりの興味深い切り口だった。近代マーケティングの父と呼ばれるP.コトラー博士は、これからのマーケティングの命題は、「世界をより良い場所」にすることであり、消費者満足や商品の差別化といったテーマを引き継ぎつつも「どんな社会をつくりたいか」という企業の思想や姿勢が問われると説明している(「マーケティング3.0」の概念)。村口氏もマーケティングとは単に売ることを目的とするのではなく、顧客を幸せにするにはどうするべきか、何のために事業をしているのか、さらに、どのような世界を実現したいのかという自分たちの事業に対する信念から始まるべきであると説明された。信念に基づく企業姿勢と活動を「ビジョンアウトブランディング」と捉えられており、この言葉は新しくとても印象的だった。ビジョンアウトブランディングの事例としてP&GやNIKE、オロナインなどの広告やプロモーション活動を紹介していただき、それぞれのブランドが特有のビジョンを語りかけるCMが上映されると会場内は感動し涙を流している学生たちも多く見られた。企業は「これから世の中はこうなる」という未来ビジョンを社会に伝え、世の中に気付きを与えることで顧客とともに新しい価値を共創していくことができ、マーケティング3.0やCVS(価値の共創)という新たな概念をわかりやすく理解することができた。モノづくりに強みを持つ日本企業は現在、モノ作りのプロセスをプロダクトアウトからマーケットインへと進展することに取り組んでいるが、それらの根底にまずもって、強い信念と明快なビジョンがないことには新しい価値をつくるというイノベーションは難しいのではないかという思いが強くなった。「売れていてもビジョンが達成されていなければ失敗」という村口氏のお言葉は未来のマーケティングのあり方を示唆しており講座の聴講者に新鮮な感銘を与えたと思う。ような仕事が、街のビール屋の大切な仕事だという。さまざまな人たちの想いをつなぎ、「地元」をキーワードに「横浜ビール」のブランドを育てていく姿勢は、飲食店だけではなくさまざまな業種に応用が可能なのではないだろうか。策をPDCAサイクルとして位置づけ、最後に分業仕分けすることなく『ブランド化』するという考え方」について語っていただいた。まずは、RESASの実際の画面を見ながらの現状のサービスの説明と、そこからどのような可能性が広がっているか、ビッグデータの活用の仕方や、AIによる今後の可能性を話していただいた。また、地域創生という観点から見た「ブランド」の意味と位置付け、地域財産とブランドを確立するために求められる考え方など、多岐にわたって興味深い話を聞かせていただいた。藤井氏のお話しによれば、ブランド論を創設するためには人を中核として考える(HumanCore)ことがもっとも重要であるとのことで、来るべき人工知能実装の社会で活躍するであろう学生への励ましの言葉にもなったようである。11


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