Annual Report Vol.1


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今後のコンテンツビジネスに関する展望研究所の客員研究員に、それぞれの専門分野から、これからのコンテンツビジネスについて語ってもらいました(掲載は執筆者の50音順です)。著作権侵害のない社会を目指して一般社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会事務統括部リーダー太田輝仁コンテンツをうまく「知らせる」ことの重要さエイベックス・ピクチャーズ株式会社映像制作部部長兼映像制作課課長穀田正仁昨今ヒットしている様々な作品を紐解いていくと、共通する要素が存在する。それが「知らせ方がうまい」ということだ。日々多くの企画、作品、プロジェクトが誕生する中、一般ユーザーに届くものは多少の差はあれど、クリエイティブとしては一定の視聴や購買に耐えうる「質」の担保をしていると思われる。しかしその先「作品を届ける」という段階において的確にユーザーへ知らせることができず、結果ビジネスに必要なポーションを満たすことができなかったことにより、寂しく終わってしまうプロジェクトも少なくない。いくら良質なものでも知られなければ意味がない。私が携わっている映像業界は、時に多額の製作費を要するものもあり、ユーザーを獲得できず結果リスクを負うストーリーは何としても避けなければならず、死活問題である。この「知らせ方」を分解していくと、いくつかの手法に分けられる。まずは「すでに知られている事象を活用する」という方法があげられる。著名な作品、人物、出来事、歴史、トレンドなどが主な要素になり得る。ヒット原作の映画化や人気俳優のキャスティング、ヒット作品の続編を製作する例が分かりやすい。また昨今はSNSや動画サイトなどで「意図的に興味を持ってもらえるように『知らせやすい映像』を発表する」動きも多く見られる。視覚的な「遊び」や「奇抜さ」「斬新さ」を内包しているパルクールと呼ばれる映像もそのひとつである。更には趣味性の強いジャンルをある程度絞り「興味がある人に強く視聴を促す」作品も増えてきた。昨年私が企画、プロデュースしてスタートしたBSフジ「アニソン・ハンター」(毎週土曜24:30~)も、音楽マーケットで注目を集めているアニソンが何故か紹介される番組が少ないことに着目し、あえてアニソンファンに的を絞った結果「こういう番組が見たかった」と多くの反響を得ている。加えて当初から日本を飛び出すことを意識し、海外マーケットを意識した作品も見られるようになってきた。ヒットしている作品はこれらの手法を1つではなく複数組み合わせて「能動的に興味を持たせ、楽しく知らせる」私の所属するコンピュータソフトウェア著作権協会は、その母体となる「ソフトウェア法的保護監視機構」が設立してから今年で30周年を迎えます。設立当時は、コンピュータソフトウェアの著作権に対する日本人の意識も低く、海賊版が蔓延しておりました。街の電気屋さんでマイコンを購入すると、おまけと称してゲームソフトのコピーを付けてくれたり、学生同士でワープロソフトのコピーをシェアしたりと、ソフトウェアビジネスはコピーとの戦いでもありました。その後、警察による海賊版の摘発や、私どもの啓発活動や学校での著作権教育、また、ソフトウェアのコピー防止技術の普及やソフトウェア価格の低廉化などがあいまって、「ソフトウェアの海賊版や違法コピーに手を出してはいけない」との意識は常識となり、店舗に海賊版が堂々と置かれることはなくなりました。しかし、今でもソフトウェアビジネスと著作権侵害との戦いは終わってはいません。インターネットオークションで「海外正規品」と謳った海賊版の出品、ファイル共有ソフトを悪用したコンテンツの違法共有、動画投稿サイトへの映像作品の無許諾アップロードなど、コンテンツがパッケージ(複製物)を離れてネットを通じて流通するようになり、著作権侵害の「場」もまた広がっているのです。著作権侵害の撲滅のためには、目の前の著作権侵害行為の停止や刑事摘発も大切ですが、やはり究極的には教育が大切だと考えます。というのも、丸々コピーされた海賊版の販売だけが著作権侵害行為ではありません。学校だけでなく、社会人も著作権を身に付けなければ、作品や商品、パンフレットやWebページの制作の際などに著作権侵害をしてしまいかねません。著作権はコンテンツビジネスの収益を下支えし、権利侵害を受けた際の武器となるものです。一方で、うっかり他人の著作権を侵害しないための著作権教育もまた、学校・会社において重要だと思います。24


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