地域貢献の新たなるフェーズに向けて~ウエインズトヨタ神奈川の取り組み~

1.地域貢献の現状
 現代の企業にとって、地域貢献及び社会貢献はCSR(企業の社会的責任:Corporate Social Responsibility)や近年のSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)といった機運の高まりによって避けて通ることのできない課題となっている。特に2030年という一定の目標が掲げられているSDGsは全企業、とりわけ上場企業にとっては喫緊の課題といえる。
 企業としてのこうした課題への取り組みについては各企業のHPをみればすぐにわかる。ただ、地域貢献という視点からみると、その取り組み内容は10年以上前から、さほど変わってはいない。代表的なものを挙げると、地域イベントへの参加及び協賛、地域の清掃活動、リサイクル活動などへの協力、地域ボランティアへの協力、地域コミュニティへの参加などが挙げられる。もちろんこれらの活動はとても大事なもので、これらの活動を高めていくことは必要である。
 しかしその一方で、上記のほかに何かできることはないのか、新たな取り組みについて考えていくことも重要なのではないか。SDGsとも連動し、企業価値を高め、従業員の満足度も高めていく事が出来る可能性はないのか。企業の地域貢献、ひいては社会貢献をもう一歩、進めて考えていく事が求められているのではないか。こうした課題について研究しようとしていた時に、ウエインズトヨタ神奈川株式会社のお取り組みを知り、この課題について共に考えていく事となった。
2.ウエインズトヨタ神奈川株式会社との取り組み
 ウエインズトヨタ神奈川株式会社(以下ウエインズトヨタ)は神奈川県にある横浜トヨ ペット、トヨタカローラ神奈川、ネッツトヨタ神奈川のトヨタ系ディーラー3社が合併して2023年に誕生した会社である。
 木村ゼミとウエインズトヨタとの取り組みは、近年叫ばれている「若者の車離れ」は本当か、その実情を調査するという目的からご協力をいただいて以来のものである。現代の自動車業界の様々な課題と、ゼミの実践的課題としての研究テーマを共有し、探究活動を進めてきてもう3年になる。折しも電気自動車をはじめとする新たな内燃機関の自動車が台頭してきており、自動車業界は100年に一度ともいわれるような大変革のさなかにある。こうした環境変化の中で、自動車ディーラーの役割はどのように変化し、地域の中で活動するディーラーはどのような地域貢献活動をなすべきか。こうした課題について探求することになった。
 もちろん統合前からも各社で地域貢献は盛んに行われてきた。ただ、それまで個別に行っていた地域貢献活動が1つにまとめられることで、より大きな活動になるのは当然である。まず、現状の地域貢献活動について、簡単に概観しておこう。下図は、ウエインズトヨタが現在取り組んでいる社会貢献活動の一端である。
(ウエインズトヨタHPより抜粋)
 そもそも『WEINS:ウエインズ』という社名も、詳しい由来はHPからご確認していただければと思うが、「地域のお客様」、「社員一人ひとり」の「新しいうれしい!をつくる」という意味を内包しているものであり、地元神奈川の豊かな地域社会づくりに貢献することが企業ビジョンとされている。
【ウエインズトヨタ神奈川のビジョンとスローガン】
(ウエインズトヨタHPより抜粋)
3.地域貢献の新たなフェーズの模索
 地域貢献において、さらなる高みを目指すウエインズトヨタの取り組みの1つが、プロスポーツクラブの運営に取り組み始めたことである。Bリーグに所属する「横浜ビー・コルセアーズ」の筆頭株主となり、2023シーズンからその運営に携わっている。さらにバスケットボールだけでなく、同じ神奈川にあるJリーグ「川崎フロンターレ」、NPB「横浜DeNAベイスターズ」への運営協力、BMXレーシング、サーフィン、モータースポーツなどスポーツを軸とした展開に力を入れている。
 スポーツクラブの運営に携わることによる地域貢献は、珍しいことではない。むしろ地元企業が、地元のチームやクラブをスポンサードすることでプロスポーツは発展してきた。やや乱暴な言い方をすれば、買収してユニフォームやHPに社名を記載し、宣伝に活用することはこれまでもさかんに行われてきた。ただ、こうしたスポーツへの参画が地域貢献にどれほど貢献しているか、その効果は限定的というか従来からあまり変わりはない。言い換えればせっかくのスポーツというコンテンツを、活かしきれていないのではないか。地域でのサイン会やイベント開催、スポーツ教室といった従来の活用を超えたスポーツの活かし方があるのではないか。こうした仮説も本研究を始めるきっかけとなった。
4.地域貢献Ver2.0の構築に向けて
 こうした流れを踏まえて、「地域貢献におけるディーラーが果たすべき新たな役割」を提言してほしいという課題をウエインズトヨタからいただいたのは2023年の9月のことである。以来、ゼミ活動としてこの問題について、大学生ならではの提言を現在取りまとめているところである。この課題に取り組むにあたって、自動車業界を取り巻く様々な環境変化、その中でのディーラーの課題、今後取り組むべき課題などについてのレクチャーをいただいた。また、現場を知らなければということで現場にご招待いただいて、ゼミ生とともに見学に伺い、その場で質問などにもお答えいただく機会を得た。
【現地見学会の実施】
 学生の目線で言えば、学ぶことが多い。グループワークで考えた多くの案はすでに実施したことがあるなど、新たな企画を提案することの難しさ、厳しさとともに面白さを感じてくれたことと思う。またウエインズトヨタから見ると、大学生という若い視点からの提言は、粗削りかもしれないが、これまでにない角度からの提案も少なくなく、検討する価値があるものも多いと伺っている。このコラムが出ているころには中間発表が終わっている予定だが、この課題については、今後も継続的に研究を続けるだけでなく、地域貢献Ver2.0ともいうべき、新たな地域貢献の方向性について探求を続けていきたいと考えている。