研究員座談会
地域創生・産学連携研究所 初年度を終えて

—地域連携活動を通じた率直な感想をお聞かせください。

西村:自由が丘との取り組みを始め、かれこれ11年目、始めた頃と今の学生は全く違いますね。「面白そうだから〜」の言葉は、今や「高校時代からこの活動をやりたくて」「この授業があるから産能志望しました!」の断言に変わってきました。その学生ですら1年次に50人程いても、2年次で「自由が丘イベントコラボレーション」の科目履修となると定員30人に絞られ全員は履修できません。

片山:えっ?そうなのですか。

西村:1年次ですでに競争が起こる。活動でリーダー格の先輩指導に付いた学生が必然的に履修していく傾向。現場での覚悟、実力、人間的なバランスを備えてレベルを上げて履修者になり、さらに鍛えられた中の15人程が3年生リーダーとなって街に残り、運営側としてアクティブラーニングを展開するのです、産能流の。

西村:今では授業も3年生が2年生のサポート内容を会議で練り上げ、街の人や企業に顔の売れている(信頼のある)4年生に相談してプランを確立させる仕組みができています。もちろん、仕組みができるまでは5〜6年は掛かっていて、6年目を過ぎた辺りから一気に成長した団体となって地域連携の規模が拡大した感じです。他地域、他団体もこれ(仕組み)を作りたくて色々仕掛けていますが、実際はなかなかうまくいかない。産能は一番うまくいっていますね。やはり、地道な彼らの継続が、結果を生んだのでしょう。そして岩井先生や大学側の考え方(方針)が私たち(街側)の想いとクロスしながら自然に組織にこうなっていった。その傍らで、学生は仲間を助けようとか、全員で進めようとか、大人より団結意識が高い。幼少から皆で助け合い、って大人が教育してきた分、それを本気でやろうとする。熱烈指導になり過ぎて、できない学生を何とかしようって想いが強い。ほら、部活に良くある先輩からの厳しい指導のような。それがアクティブラーニングの弊害でもあると感じています。大人のように“アイツはアイツ、アレはアレ”って割り切りが学生にはできませんから。
・・・というのが10年間で思ったことです。
岩井:西村先生とまさに11年ご一緒させていただいて「自由が丘イベントコラボレーション(通称:イベコラ)」という自由が丘の街を主体とした授業から、新たに辻口客員教授による「自由が丘スイーツプロモーション」に至るまで、もう「自由が丘」抜きでは語れない大学になっています。街の人に足を向けて寝られない状況です。十数名のボランティア活動から始まった活動は、現在、ボランティア学生を含めて300人規模に拡大し、特に秋の自由が丘女神まつりでは、その学生と教職員が一体となって行う実践的な授業に成長しました。授業は一年間で28週ですが、授業外時間の学生の自主的な集まりは、ほぼ、街の方々にお世話になっていて。(街の方々の)取り組み姿勢を尊敬しています。西村先生をはじめ、本学に良くしてくださる方もいれば、ちょっと厳しいご意見をお持ちの方もいるかもしれないですが。

西村:反対する方って必ずいるじゃないですか。そこで私が「凄い」と思うことがあって。学生たちって、(街の人を)良く観察して考えていて、ずっと私らより賢い。(笑)(反対意見を)わかっていて、それを陥落させようとチーム作って大人たちに仕掛けるわけです。自分達の活動がやりやすくなるように。

片山:大人だと諦めたり、それ以上しないでやめちゃったりしてしまいますよね。

一同:(全員うなずく。)

片山:それでも、学生たちの活動への強い想いがあるからこそ、大人も説得できちゃうんですね。

西村:自分達の組織論をぶつけていくんですよ。だから伸びるんだと思うのですけど。

岩井:西村先生が「6年目位から組織力が出てきた」とおっしゃいましたけど、その頃から大変優秀なリーダーの登場、その前のリーダーも今では勤務先で営業成績連続トップ。しっかり実践力を身につけて卒業した先輩たちが生まれてね。

西村:良く言えば凄い優秀。悪く言えば、学生らしくない。(大笑)

岩井:そうなんですよ。(一同、笑) 私らより、処世術の長けた人たちです。

岩崎:そこがまさに、実学教育なんでしょうね。社会に出た瞬間に発揮されるんでしょう。

西村:5,6年目から圧倒的な活動になってきた理由として、一つわかってきたこと。リーダーが全部女子なんですよ。自由が丘の大人たちに自然に入り込む、それは女子に多い。一方、男子の20~22歳、私もそうだったけど、いつまでたっても男性社会の先輩後輩で。

岩崎:あぁ、“縦の繋がり関係”になってしまうんですよね。(笑)

西村:女子の人間間の距離の詰め方は絶妙。(笑)上の方に対しても、フレンドリーな感覚で話しかける、あれ、凄いよね。

片山:岩崎:男子は(なかなか)できませんからね。(苦笑)

西村:さっきの(アクティブラーニングの)弊害と同じで、会社での30年間ならその構図は違うと思うけど、限られた4年間では女子の力量が強い、確実に。人間社会の構造の問題なのか、男子は3年生になると後輩の面倒を見ているが、4年生女子はすでに“大人(街の方)の近くにいる”という風景になっています。

岩井:そうそう、確かに。

西村:ジェンダー研究者にも聞いてみたい。それがわかると適材適所がもっと明確になるかもしれない。そこを学術的に大学が研究するのも面白いね。

岩井:面白い。

—総合研究所の岩崎さん、片山さん、学生の活動を一年間、直視していただきましたが、 ご覧になっていかがでしたか。

岩崎:そうですね、我々社会人教育部門と学生では接点が少なく、正直、何をやっているのか理解していなくて。去年から様々な活動を見せてもらい、かなりの多種多方面で活動している姿に感心しました。本学学生がどの程度の力量(実践力)があるか知らず、学生が生き生きと動く姿、大人の世界に関わり発言をするシーンが凄く新鮮に映っています。同時に力強さ、大学生がここまでやるのかと驚きさえある。私の子供も学生と同世代ですが、自分の子供と比べて「凄くしっかりしている」が最初の印象でした。

一同:同感です。(笑)

岩崎:だから、期待を持って入学した学生たちがどうやって力をつけるのか、とても興味深いです。本学社会人教育部門には能力測定テストやツールがありますが、4年間の成長幅をデータで取ってみたら面白いかと。また、社会人になった後も、どういった活躍をしていくのか、どういう領域の会社、業種なら伸びる、または伸びないのか、相関はあるのか。社会人の育成に携わっている側からは、そこに以前よりかなり変化があると感じています。昔に比べアクティブラーニングの機会が増え、研修、グループワーク慣れしているのか、答えを出すのは上手いけれど、考えが今一つ深まらなかったりする姿を見ているので。

岩井:わかるな。

岩崎:グループワークは女性がリーダーになるのは同じ現象。本学学生の例だけでは言えないですが、成長の過程、度合い、役割の在り方の中に、何かヒントがあれば、我々社会人教育部門側の若手の教育、キャリア開発に示唆ができるのでは?と感じましたね。

一同:なるほど。

片山:私が強く感じたのは、こういう経験の場が学生たちに与えられていることが羨ましいと感じました。若いうちに、社会や市場、地域を巻き込んでって、様々な活動に打ち込めるというのは絶対できない貴重な経験だと思います。そして任される、任せてもらえるという責任も含めて“与えられている”ことが重要です。そこに先生方の指導、厳しさが加わっての素晴らしい仕組みが出来ている。岩崎さんがお話された生き生きしている姿は、やっぱり、厳しい状況の中で自分なりに出した答えがあるから、自信を生み出せているのだと思います。一朝一夕でできたものではないと思いますけど、恵まれているな、羨ましいな、と率直に思いました。

岩崎:最近、求められているのは“イノベーションが起こせる人材”ってよく言われるのですが、会社に入ってからでは育てられないのが現実。むしろ、そういった素養を持った人たちが力を発揮できる環境を(会社側が)作らないと、たぶん育成って難しいと思います。この活動に参加している学生は、イノベーションを起こせる可能性を持っていますよね。

西村:その通り、そうだよね。

岩崎:そういう学生を育成できる大学ですということは、本学のプレゼンスが高まると思います。最初は与えられるけれど、次には自主的に行動するっていう能動的に変わる瞬間がどうもあるようですね。社会に出てどういった場面で役立っているのか、「あの時のこういう経験がターニングポイントになっている」というようなものが明らかになると、ひょっとしていい研修の形と言うか、教育の情報にもなっていくのではと感じました。では、どういう経験を与えたり、どういう気づきを促せば人って伸びるのかということも考えないといけませんが。
片山:社会人になり、社会の常識がわかってきたり、企業のルールを知ったりすると、自分の言葉で想いを語ることがなかなかできにくくなると思います。「これを言ったら、こう思われてしまうんじゃないか」とあれこれ考えてしまうから。

西村:イベコラの学生たちの中でも“局面を変えられる学生”が出世(成長)していますね。学生に言わせると、仕事は誰でもできるんだって。わからないことは何でもネットで調べられるし、資料作りもフォーマットがあるし。我々の頃のようにどれだけ知識があるのか必要ないんだよね。それは向いている子がやればいいと。例えば英語は、「英語ができる子がやればいい」って言うんです。
人間力が大きくなって、敵対していた人を好意的に寄せられる。今まで入れてもらえなかった町会に食い込んでしまうとか、要は状況を変えられる学生。世の中も求めているんだよね。産能は、そういう学生が多いですよ。

岩崎:知識でできることって、たぶんAI に置き換わっていくんでしょうね。

一同:そうそう。

岩崎:人間しかできないことっていうのは、人と人とのかかわりの中で、さっき仰られたように局面や状況を変えて、いい方向に持っていける。そういう人材っていうのが、これから求められていく。特に、地域活動って色々なしがらみがある中に入り込むので、人との繋がりを変えていかないと局面打開できない。

西村:学生の活動時に声の大きさを周囲の人に注意された時、キャプテンの学生が「幼稚園とか隣にあって、知り合いの子が騒いでいたらかわいいと思う、知らない子が騒いでいたらうるさいと思う」って、全体に指導するわけですよ。これ、凄いと思った。ワーワー騒ぐことが悪いんじゃなくて、商店街の皆と仲良くなっていれば、ワーワー騒いでいても、元気があっていいな~、って思ってもらえるって。そして、後輩の学生たちに考え方が引き継がれ、徹底さえされている、今日。学生一人、一人に落とされるんです、街の大人が狙われて。(笑)産能ファンになるように、次から次へとアクション起こして。もともと、反対していた人たちの方が、仲間になると好意的になっていきます。ある学生が以前、「プレゼン資料を作るよりも、プレゼンする機会をつくれる人の方が偉い」って言ったんですよ。自分の町会内に説得しやすい資料さえ作っておけば良いのであって、むしろそのプレゼンができる機会をつくれる学生が偉いって。確かにそうだろうなって、思った。企業もキャラの輝き、人にスポットを当てて、“大学がお墨付きをつけて企業に推薦してくれる”という採用基準になると、産能の学生、強いと思うんですよ。経験を積んでますから。勉強も必要に応じた勉強をしているというか、実際に動きながら足りないところを学んでますよ。

岩崎:「裏付けとなる経験があるから、こういうことができます」みたいになると、採用する側はとてもわかりやすい。ほかの大学生と差別化ができる。

西村:この10年間で、すでに自由が丘とか、この近辺に住んじゃったり、就職した学生が沢山出てきています。それまでの学生は、(卒業すると)素通りしていたと思います、自由が丘を。でも、ここまで(街に)深く食い込むと、街の人とも仲良くなってるし。この10年間、何百人、海に放流して戻って来ている魚のごとし!これが絶対、10年後、20年後の街、地域発展のためになると思うんですよ。だからこのモデルは他のエリア地域でもやった方がいいと思う。自分のルーツ(地元)を愛すっていうか。絶対その学生たちが未来のそのエリアの力になっていくと思うから。

伊藤:なるほどね。それが本当の地域活性かもしれませんね。

西村:時間も手間も掛かるけど、確実な街づくりだと思います。

岩崎:自由が丘っていうエリアもいいですよね、ブランドというか。それは大きいですよね。
西村:成功しているケース、これは偶然ではないと思うのですが、いわゆる地方銀行が付いてくれているところ。いわば産学官連携に、金。「金(金融機関)」があって「産」が付いてくるんでしょうね。結局、茨城(筑波銀行)や沖縄(琉球銀行)は、自由が丘での地方創生案件として安定して伸びている。これも産能モデルとして、大きな成功事例だと思うんですよね。地方銀行のバックアップを得られるのは、とても良いことですよね。新潟の大光銀行もその一つ。全国にアピールしても良いかもしれませんね、産能の実績として。(笑)

岩崎:最近、地方銀行は厳しいと言われている時代ですからね。成功している地方銀行がどういう経営状況になっているかを見てみると、ひょっとしたらアピールになるかも知れませんね。

西村:ただね、自由が丘で全国各地の地方銀行さんが色々やるでしょ、イベントを。その際に理由が必要だったんですよ、なぜ自由が丘なのかと。だって、「自由が丘にとって、メリットあるか」って言われちゃったらね。なぜ、自由が丘でかすみがうらを売り出すの?みたいな。

岩井:でも、だんだん地域ストリートみたいなものが出来てきましたね。有難かったです。もう一つ、継続の難しさっていうのが一方でありまして。皆、人間は歳を取っていきますから。西村先生も私も、その辺を上手く継承できるかどうか、指導というか、ね。学生は毎年変わっていくんです。野球部と一緒です、監督は変わらず毎年の新入部員。

西村:「卒業生から誰か代表出してもらって」という声が街側であります。ここでやってこれた卒業生からイベコラの指導役を選出する、凄いことじゃないでしょうか。

岩井:連携相手も変わったりすると、地域も役所なんか3、4年で変わっちゃう、銀行も。そうすると、急に熱が冷めちゃったりしてね。そこがまた悩みなのです。形だけやっているみたいな。

片山:理解がある人がいるか否かで全然違いますよね。

岩崎:“理念”って引き継がれないんですよね。我々も色々な自治体と色んなことやってきて、この担当とやってきたことが、(担当が)変わると全然、もう想いが伝わってなくて。ただ単に事務的に手続きだけが流れていく、何年か経つと廃れちゃう。経験していますよ。一番難しいのは、“想いを伝えて引き継いでいく”ってことでしょうね。一番難しいです、継続していくための働きかけって。

伊藤:支援者が大事。そう何年も担当できないし、後継者問題ですよね。継続はやはり、人ですね。母校愛と地元愛をキーに想いを継続させていくしかないかと。だからこそ、卒業生の成長をぜひ、言葉で聞いてみたい。自由が丘に対する想いややってきたことへの振り返りを聞きたい。

岩崎:卒業してから振り返った方が、あの時の何が今の自分に役に立ったのか。社会に出て苦労しているわけじゃないですか、その苦労を乗り越える時に、“あの時のこういう経験が役に立った”というのが判ってくる。卒業してすぐの学生より、少し時間が経っている学生たちの方が色んな話が出てくるような気がします。

片山:そういう先輩から話が聞けるというのも在学生にとってはいいことですよね。社会に出たらこうやって活躍の姿が見えるんだ、というひとつ良いロールモデルになると思うのですよ。企業内の活躍している人を観るだけでなく、母校の先輩達をロールモデルにしたら、“そういう生き方もあるんだ”とか、すごく世界が広がるんじゃないかって。

伊藤:今後は公開パネルによるディスカッションなんて面白いかも知れませんね。学生はもちろん、地域の方々や総合研究所の職員の方、さまざまな方の参加の中で“想い”を聞いてみたいです。あの子達は誰がお客さんでもしゃべりますよね。(笑)

西村:我々と違って、ちゃんとパワーポイントも作ってしゃべると思いますよ。(笑)

伊藤:ぜひ次回の座談会のテーマにしましょう。

片山:振り返りもまた、次の経験に繋がっていきますからね。喋ってくれる卒業生もまた、次のステップアップのきっかけになると思うのですよ。(その経験を)人に話すことによって、“自分はこれで強くなってきたんだ、これが良かったんだ”ってまた再認識できる。そういう交流が循環していけば、卒業した後も様々な人との関係性がどんどん、どんどんと広がっていきますね。

伊藤:本学の職員の方にも若いパワーを観ていただき、ぜひ、その裏側舞台に触れていただき、新たな発見をしてもらいたいですね。皆さん、今日はありがとうございました。
<座談会参加者>
所長 岩井 善弘
(経営学部 教授)
研究員 伊藤 一実
(学生サポート部長)
研究員 岩崎 靖久
(総合研究所 研修管理部長)
研究員 片山 和典
(総合研究所 マーケティング部 マーケティングセンター長)
客員研究員 西村 康樹
(古書「西村文生堂」 代表、産業能率大学 兼任講師)