プロが教える「進路づくり」 第6回

PROFILE
「高大共創」のアプローチで高校生の進路開発などに取り組む。日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。進路選びではなく進路づくり、入試広報ではなく高大接続が重要という観点から様々な団体やメディアと連携し、企画・情報発信を行う。全国の高校や進路指導協議会等で、進路に関する講演も多数努める。著書に『看板学部と看板倒れ学部 大学教育は玉石混合』(中公新書ラクレ)『文学部がなくなる日 誰も書かなかった大学の「いま」』(主婦の友新書)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/

第6回 早めに合格を得た高校生がやっておくべきこと

入試での合格は、ある一部分に対する評価に過ぎない?

現在の大学入試は多様化しています。冬から始まる一般入試(筆記試験で基礎学力を問う入試)のほか、アドミッションズ・オフィス入試(AO入試)や公募制推薦入試、指定校制推薦入試など、入試内容も実施時期も実に様々。早いものでは9~10月頃に合格発表が行われますので、本コラムが公開される頃には、既に合格を得たご家庭もあるかもしれません。

早めに合格を手にし、さあ何もかも忘れて遊ぶぞ……と、解放感いっぱいになる受験生も多いかと思いますが、ちょっと待って。合格のために学んだのではなく、学ぶために合格したのですよね。4月までにどんな準備が必要か、今のうちに考えておきましょう。

学校で行う教科学習を「頭の筋トレ」に例えれば、一般入試というのはいわば、3年間での筋トレの最終成果を問う入試です。様々な教科のテストで頭の体力測定を行い、その合計スコアが高い方から順番に入学を認める。数値だけで測るわけですから、非常に公平です。

しかし大学が育てるのはボディビルダーではなく、社会で活躍するプレイヤー。頭の筋トレはもちろん非常に重要ですが、それだけで優れたプレイヤーになれるとは限りません。そこで昨今では多くの大学が、志望動機やこれまでの実績、大学の学習スタイルとのマッチング、大学卒業後の展望など「プレイヤーとしての成長可能性」にフォーカスした入試も行っています。その代表例が、多くの大学が行うAO入試です。また、学校の推薦によって出願する指定校制推薦入試や公募制入試は、目標に向かって努力を積み重ねていく資質や、学校生活の中での様々な努力などをもとに、大学で学ぶ力を評価しています。
(※上記は一般論です。実際の各大学の評価基準には個々の違いもありますので、ここで述べたことがすべてのケースに当てはまるとは限りません)

大学はなぜ、このように手間をかけて多様な入試を行うのか。バラエティに富んだ学生集団をつくりたいというのが、理由の一つ。多様なメンバーが集まる環境の方が、学生達の学びも豊かになる……と、多くの大学が考えているのです。

裏を返せば、入学してくる時点ではそれぞれ、試験で測っていない要素がある状態です。基礎学力で合格を勝ち取った一般入試生の場合、その時点でのプレイヤーとしての資質は未知数です。AO入試・推薦入試の合格者はその逆で、頭の筋トレがまだ途中の状態。こうした不確かなポイントを認識し、入学までにしっかり補っておくことで、大学生活を順調にスタートできるというわけです。

受かった今こそ自分の「これまで」と「これから」を冷静に見つめ、努力を

早期に合格を決めた受験生に勧めたいことは2点です。

第一に、上述した「試験では測られていないポイント」を補う努力。特に強調したいのが基礎学力アップの勉強です。高校3年間のカリキュラムを最後までやり通し、復習しておきましょう。高校の学習範囲を一通り学んだという前提で大学の授業は始まります。油断したために学力不振に陥り、大学1年生前半の時点で必要単位を落として、中退や留年へ追い込まれてしまう大学生は全国で後を絶ちません。

しかし入試に合格した時点で、なかなか高校の復習をする気にならない方も多いでしょう。そこでお勧めなのが、少しフライングし、大学の学びに触れてみること。大学生向けの教科書や参考書を読む、大学の普段の授業を聴講するなどは効果的です。「経済学の授業では意外と数学を使うんだな」、「英語の授業で、知らない英単語ばかり出てくるぞ」など、危機感を覚えると同時に、今やるべきことも見えてくるはず。留学するのならこの時期までにTOEFLのスコアがこれだけ必要、といった情報を元に学習目標を立てるのも良いと思います。

第二に、現在までの日々を振り返ってみることです。自分は高校生活で何を学び、どう成長したのか。どんなときに大きく変われるのか。いま何に苦手意識を持っているのか。高校でやり残したことはもうないか……など。それぞれ振り返って考え、書き出す。そんな省察の時間を持つことがお勧めです。

受験勉強中は、目の前の課題に向き合うことで精一杯になる方も多いはず。心に余裕を持てた今こそ、自分の「これまで」と「これから」を冷静な目で見つめる良い機会です。大学で絶対にやり遂げたいことを優先度の高い順にリストアップし、その具体的な実現時期も含めて書き出してみるのも良いでしょう。入試のために志望理由書を書いた方なら、それを元に今後の学習計画をつくるのもアリです。

AO入試や各種推薦入試の合格者には、授業で活発に議論し、他の学生に刺激を与え、学びをリードするような活躍が期待されています。しかし受かったと同時に何ヶ月もだらけて遊んでしまっているだけでは、リードするどころか、入学直後に自分でずっこけるような事態になりかねません。せっかく将来の夢に向けて早めにスタートを切れたのだから遠慮なく突き進んで良いよ、と保護者の方からもぜひお伝えください。