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コンテンツ業界の今を語る 漫画家 さそうあきら氏

漫画家 さそうあきら氏 × 情報マネジメント学部准教授 柴田匡啓

雑誌がどんどん売れなくなってきていて、Webへの過渡期だと言われています。

柴田:「コンテンツ業界の今を語る」リレーインタビュー、コンテンツ業界で活躍されている様々な方にインタビューをお願いしています。今回は、「神童」や「トトの世界」「俺たちに明日はないッス」「マエストロ」など、私にとっても思い出深い数々の作品を世に出していらっしゃる、漫画家のさそうあきらさんに来ていただきました。さそうさんは、2006年からは、京都精華大学マンガ学部マンガ学科の准教授でもいらっしゃいます。いや、実は初対面の方にインタビューするのはこれが初めてなので、緊張しておりますが、どうかよろしくお願いします。

さそう:こちらこそ、よろしくお願いします。

柴田:さそうさんは、ちょうど「ほぼ日刊イトイ新聞」で、「さよなら群青」のweb連載をやっていらっしゃいますよね?前からお聞きしたいと思っていたことなのですけど、例えばああいうウェブの配信は、今後の可能性としてどうなっていくのだろうということ。また、KindleやiPadなどでの電子書籍について、「小説」も確かに配信には向いているのかもしれないけど、「漫画」っていうのが、すごく親和性が高いんじゃないかと思うのですが。簡単にページをめくっていけるし、ページをめくった時のダイレクトなインパクトは電子書籍でも変わらないんじゃないかと思うのです。

さそう:そうですね、今はもう雑誌がどんどん売れなくなってきていて、Webへの過渡期だと言われています。今の学生は大変です。みんな漫画家になりたいんですけど、雑誌が売れなくなってきているので、雑誌のほうでもなかなか新人を載せてくれなくなってきているんです。これからはもうKindleやiPadみたいな電子書籍になっていくだろうと予想されてはいるのですが、どういう形で配信していくのか、どういう版型でやるのか、などすべてにおいて未知数なんです。

柴田:携帯電話への漫画の配信だと、コマで全部割りなおしていて、「ぎゃー!」とかいう擬音の場合はブルブル震えたりさせていますよね。そういうのは、今のところ一応成功しているモデルとして扱われていると思いますが。

さそう:携帯だけで何億円も儲けている人もいます。女子高生が、今まで読まなかったような、例えば青年誌に載っている、ちょっとエッチな不倫ものなんかを読むようになったと言われています。

柴田:まあ、実際の雑誌だと店のレジで買わなくちゃならないし、電車なんかで読むときには、何を読んでいるかわかっちゃいますからねえ。

さそう:それがまあ、携帯だと読めるということでヒットするきっかけになっているんです。携帯というのは、媒体として独特なものだなあと思います。ああいうふうにコマ送りしながら読むというのは、ちょっとアニメに近い感じもありますよね。印刷だとカラーをつかうとお金がかかりますが、web上ではそれは関係ありません。音楽を付けたり、そういうこともできますよね。そのように考えていくと、今までの形で漫画はいいのかっていうことになってきますよね。スクロールの仕方も、本を読むようにする必要性はないですから。絵巻のようにだらだらと縦や横にスクロールするという手もあります。

柴田:今は見開きで見やすい工夫をしていますけど、1ページごとになると、例えば手塚治虫が最初に開発した映画の手法を取り入れて、次のページに行ったときに、全部が見開きで大パノラマになっているとかね。あとは、まあ、いいシーンはわざと開いたときに見えるようにするとか。今はたぶんもともとの紙の媒体をwebで見られるようにすることが主流かもしれませんが、最初からwebに最適なものを作ろうとすると、技法とか見せ方って、これから全部変わってきますよね。

さそう:そうですね。例えば電子書籍は、見開きっていうのとは違ってきますよね。ページ単位でめくりの面白さを考えなければいけないとか、そういうことになりますよね。

Webのいいところをひとつ上げると、「絶版」がなくなることでしょうね。

柴田:うちは情報マネジメント学部というところなんで、どうしても「もうかる、もうからない」という話になってしまうのですが、最近昔のコミックの配信をはじめたところがいくつかあるんですけれど、1冊ダウンロードするのに400円以上もかかるんです。しかも昔のもので、15年とか20年前のものをその値段で配信する。で、感想としては、高すぎるという声が多い。流通コストはゼロで、しかもスキャナーで読んでいるらしく品質も大して良くなくて。さそうさんは、雑誌に載る1話分を配信されたことがあるんでしたか?そういう時には、ワンダウンロード売価はいくらぐらいなんですか?

さそう:おまかせみたいになっていて、僕はあまり知らないのですが、400円は高いですね。

柴田:今後、音楽配信と同じようなことが雑誌でも起こるのではないかと思うのですが、音楽の場合は、15曲入りアルバムが3000円に対して、シングルダウンロードが150円から400円。漫画雑誌は1冊300円とか350円ぐらいで、1冊あたり20作品載っているとして、1話15円から20円と仮定します。それをダウンロードでやるとすると、たぶん1作あたり30円~50円でできそうです。まあ、漫画雑誌の場合は、雑誌での利益はほとんどないので、もうちょっと高くなってしまうかもしれませんが。

[写真]さそうあきら氏×柴田匡啓

さそう:Webのいいところをひとつ上げると、「絶版」がなくなることでしょうね。古い誰も読まなくなったようなものでも検索して読めるようにしていける。

柴田:そうですね。ずーっと溜め込んでいくだけだからですね。どんどんアーカイブして書庫に溜めておけば、誰でもいつでも読めるし、1話分、いや安い値段設定であれば3話読んでみておもしろければ続けて見るし。しかもこのときに1話30円という値段設定だとして、配信会社の取り分が、30~50%になっていますから、著作者には半分以上が入ってくることになります。まあ、著作者と配信会社の間には、編集やプロデュースを行う人や物が介在することになるので、実際には3分の1くらいに落ち着くと思いますが、それでも1話あたり10円が漫画家に入ってくることになると思います。

さそう:今は単行本の場合、印税10%なんですけど、作家が自分で直接webに配信するようになると、その取り分もこれからどんどん上がっていって、逆に今まで流通の過程で利益を取っていたところが、もう取れなくなっていってしまうという、それはもう確実にそういうふうになるような気がしますよね。

柴田:現在、単行本を出す場合の契約はどのような形なんでしょうか?二次使用、例えばwebに配信する場合などの取り決めはどうなっているんでしょうか?

さそう:もちろん、契約書はあります。いろいろなことは細かく契約書では決められていますね。でも、慣習としてあまりお金の話はしないですよね、この業界では。他の業界でイラストを描くという仕事をしたときに全然違うって言われるんですけど、請求書を書かないんですよ。それが他の業界ではありえないんで…

柴田:まあ、普通は委託契約とかっていうのは、例えばイラストなら1点いくらでっていうので、請求書をもらわないと払えないことが多いですからね。

さそう:そういう請求書を書かないシステムになっているので、漫画家は。それはどういうシステムなんでしょうねっていうことを時々聞かれるんです(笑)。最初からそうだから、考えたこともなかったんですが。最近は出版社が契約書をくれるけれど、最初は出版社が書いた契約書はなかったです。今も、原稿料に関する契約書というのはないです。あくまでも単行本を出すときの契約書ですから。

柴田:普通の雑誌に載せるときの契約書はないっていうことですね。

さそう:ええ。昔は単行本に対してもなかったです。いつのころからか契約書が来る様になりました。

アクセス数が多いサイトなので、そこで宣伝してもらうわけです。

柴田:今回の「さよなら群青」については、今年の3月で連載が終わったあとにwebで配信することや、ほぼ日刊イトイ新聞で連載することは、すんなりといったんですか?

さそう:ほぼ日は漫画を載せたことがなかったので、初めてらしいんですけど、原稿料は発生してないんですよ。ただで載せてもらっています。アクセス数が多いサイトなので、そこで宣伝してもらうわけです。

柴田:っていうことはほぼ日で読んでもらって、既刊の1、2、3巻を売るための宣伝という側面もあるのですか?

さそう:1、2、3巻も含めてですね。

柴田:じゃあこれから4、5、6も単行本として出すっていう…

さそう:いや、4巻までしかでないんですけど。

柴田:そうか、4巻まで出すことは決まっていて、今はwebで無料で配信して、それが単行本になったらそれはそこから売るってことなんですか。それって他でやっている人がいたんですか?

さそう:ほぼ日では初めてで、今はwebで配信している漫画は沢山ありますので。前にやっていた「マエストロ」っていうのも結局web連載という形になりましたから。

柴田:なるほど、これからは漫画家もいろんなことをやらなければならないんですね。

さそう:今、京都精華大学でも、いろいろな試みを始めています。竹熊健太郎さんを中心に、大学で漫画雑誌をつくれないか、という模索をしていますね。もう巷の出版社がこの先どうなるかわかりませんから・・・。

柴田:「サルまん」は読んでいましたので竹熊さんのお名前は存じています。で、その場合の雑誌っていうのは、紙で出す雑誌なんですか?

さそう:いや、この場合は基本的にはまずwebでっていうことですよね。「のだめカンタービレ」の編集者だった三河かおりさんと組んだ、竹熊・三河ゼミっていうのがあって、そこで大学から発信していくものを作ろうっていうのを今はやっています。

柴田:それは面白いですね。昔は絶対できなかったけど、今webだと可能性高いですからね。

さそう:出版社はいらないっていう感じになっていくだろうと言われていて、僕みたいにおまかせ、なんてしていると10%ぐらいしか取り分はないんですけど。漫画家の中でも敏感な人は「本当は100%近く取れるはずだ」と考えていて、世界中の人を相手にして、自分の漫画を買ってくれる人や会社と個別に契約していくみたいなことをしようと考えている人もいます。出版社にしてみれば、そういう動きが怖いでしょうね。

webの新しい可能性

柴田:電子出版については、技術的な面は、どんどん進んでいくと思うので、本当にだれでも簡単に出版できるようになっていくでしょうね。「言葉の壁」も間に翻訳のエージェントがいればいいわけですしね。

[写真]さそうあきら氏

さそう:まあ、漫画が面倒なのはやっぱり、例えば日本の漫画だと縦書きで右開きなのが、向こうは横書きなので、逆にしなければならないとかいうことはありますね。それが有効な漫画もあるし、そうでない漫画もあります。野球とか、逆周りになっちゃいますからできない。オーケストラ漫画もできない。

柴田:あとは右開きでもむりやり出しちゃうっていうのもある。

さそう:ああそうですね。結構それで読んでいるみたいですけどね。

柴田:慣れればどうってことないらしい。

さそう:でも吹き出しの形自体縦長になってるんで、読みにくいと思いますよ。僕を含めてパソコンのソフトで漫画描いている人は、吹き出しを別のレイヤーにしてしまって、あとから形を変えられるようにしています。

柴田:へたするとかぶっちゃったりする可能性もあるけど、それはしょうがないって感じですか?

さそう:まあ、反転したときに位置とか大きさもソフト側で対応すればいいことだから、そういうこともできる。あと、言葉の問題でいうと、擬音とかが難しいですかね。

柴田:あれは英語に直したりするのは大変ですよね。

さそう:この前、オノマトペ(擬音)の特集をNHKでやっていましたね。オノマトペが海を渡るみたいな番組があって、漫画を翻訳するときにどうするかっていうことをやっていた。ナルトの擬音の1つを、どう表現するかってみんなで会議をしているんですよ。なかなか決まらなくてたいへんそうでした。

柴田:あとはローカライズで、性的な表現とかは大変ですよね。だいたい日本で胸元が極端に開いていたとしたら、どんどん狭まっていくし、最終的には第2ボタンまで閉めちゃったりするから。

さそう:アメリカとかもああ見えてもすごい厳しくて。

柴田:流血についてもかなり厳しいみたいですね。

さそう:だから、ちょっと流血していると、そういうのはもうだめとかね。海外版のナルトのアニメとかみるともう全然違う。

柴田:そういうローカライズについては、専門家が必要になってきますね。各国人で構成したローカライズ専門会社なんかを立ち上げたら、これから良いかもしれませんね。ところで、漫画がwebで流通するようになると、さっきの携帯コミックのように、読者層は変わっていくんでしょうか?

さそう:この前映画化された「ダーリンは外国人」のようなコミックエッセイみたいなものは増えていくかもしれませんね。短い時間で、ぱらぱらって見ただけでどんな漫画かわかるライトなもの。で、そういう絵 だと今まで漫画を読んでなかった人でも読める。どこに読者層が広がっているかはわからないところがあって、そこにwebの新しい可能性みたいなものがあると思いますね。

柴田:男性・女性向けの漫画もそうですよね。女性向けの漫画が好きな男性ってたくさんいるじゃないですか、実は。で、堂々と買える人もいるけど、買えない人もいると思うんですよ。

さそう:そうですね。だから要するに読者層とwebの関係っていうのもちょっと面白いと思いますよ。

[写真]柴田匡啓

柴田:世の中にはいろいろな分野のクリエイターがいると思うんですけど、「webで可能性が広がる」っていうのはたぶんものすごく歓迎されるべきところなのかなあと思っているんです。ミュージシャンなんかもそうですけど、インディーズで一生懸命やっていて、泣かず飛ばずで、またはちょっとメジャーデビューしたけど2、3枚で終わっちゃってまたストリートに戻るっていう人はすごくたくさんいると思うんですけど、そういう人が少しずつファンを増やせば、何十万人が相手じゃなくても、ある程度飯食っていける仕組みになっていけば…。今だと売れる人は無茶苦茶に売れて、売れない人はずっと売れないっていうこの格差は、webによって絶対狭まってくると思うんです。漫画に関しても、メジャーの雑誌に載らなくても、ちょうど同人誌との間の形で、同人誌じゃないけれどもある程度生活ができる程度のところまでは大丈夫ですよっていうのは、絶対増えてくるかなあと思うんですけど。

さそう:そうですね。漫画でもベテラン作家のコアな読者っていうのは必ず2、3万人とかいるんですよ。

柴田:2、3万人いれば十分ですよね。さっきの架空の計算で言うと、週に1話書いて、1ダウンロードでの作家への収入が10円だとしても20~30万円になる計算になりますからね。

さそう:そうですよね。紙の本だと、それだけ買ってくれる人をつかむのって大変だと思うんです。ぼくも一応コアな読者はいると思うんですけど、買っていただくところまでもっていくのがすごく大変なんですよ。それがやっぱりwebだとハードルは低くなると思います。だから今まで書店にいってもなかったり、取り寄せたりするのがすごくハードル高かったのがwebだとそれがなくなるので、そういうコアなファンっていうのがつかみやすくなるのかもしれません。

柴田:絶版も在庫管理も増刷も無くなるから、リバイバルも簡単ですしね。そう考えると、やはり、漫画に関しては、電子出版化はとても良いことのように思えてきますね。

さそう:どこまで移行していくのかはわかりませんが、自分の大学でやっていることも含めて、これからも考えていきたいと思っています。

柴田:私も、ビジネスという側面から漫画業界についてウォッチしていきたいと思います。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

さそう:こちらこそありがとうございました。

2010年8月

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