高校の先生向け 進路コラム 第1回 <2024年度連載>

探究学習と進路指導を繋げて、希望進路を見つけるヒントに

【探究で扱うテーマの裏には、様々な学問や職業が】

「やりたいことが見つからなくて悩んでいます」

 これ、あらゆる高校でよく伺うお悩みです。

 毎年多くの高校で講演や研修を行っているのですが、生徒だけでなく、保護者や教員からのご質問も「うちの子(生徒)はやりたいことが見つけられなくて。どうすれば見つけられますか?」が最多。皆さん、お悩みですね。

 高校生に同情する部分もあります。かつては法学部、経済学部、文学部……と指折り数えられた学部の種類も、今では数百種類にまで多様化。名称だけでは何を学べるのか想像しにくい学部や学科も増えました。社会課題の多様化が背景にあるとは言え、これでは選ぶ方も大変でしょう。

 大学や専門学校を呼んでの模擬授業や学校説明会を校内で開催したり、オープンキャンパスへの参加を夏休みの宿題にしたり。学校も様々な工夫をされています。が、それでも「ピンとこない」という生徒はいるものです。多くの場合、学校主催の進路行事は時間や予算の関係上、どうしても短い時間の中で多くの情報に触れさせることに主眼が置かれがち。一つひとつの学問や職業を深く知るには限界があります。

 そこでオススメなのが、探究学習を進路リサーチの機会として活用することです。生徒が探究で取り上げる様々な社会課題やトピック、テーマには、必ず多くの学問や職業が関係しているはず。そこに注目してもらうのです。

 たとえば「少子化」。少子化が進む「原因」としては女性の社会進出やジェンダー観の変化、キャリア観や働き方の変化、若者を取り巻く経済状況、保育園などを含む日本の子育て環境や政策の状況などなど、様々な要素が挙げられます。

少子化によって生じる「結果」の方も考えてみましょう。生産人口が減少すれば企業の経済活動にも影響が出ますし、人口減少により地方自治体の財政は破綻します。医療や福祉などの社会制度も維持できません。税制をはじめとする日本全体の財政も見直しを迫られることになるでしょう。こちらも、考え出すとキリがないくらいです。

 これらは高校生が進路を考える上での大事なヒントになり得ます。少子化の問題を深く理解するためには、たとえば社会学や政治学、経済学、教育学、福祉学などの学問が大いに役立つことでしょう。「少子化が進んだとしても問題ない状況をつくれれば良い」という発想に立つなら、少子化をチャンスにできるマネジメントや技術開発のあり方を学ぶのも良いですね。経営学や工学、情報科学などの選択肢が見えてきます。原因と結果、それぞれに様々な学問が関わっています。

【問いかけの仕方次第で、様々な理解が深まる!】

ミスマッチをなくす進路指導のためには以下、3つの観点でのリサーチが大切です。

①学問理解、職業理解
→学ぼうとしている学問や職業分野の中身を理解すること。カリキュラムや扱うトピック、どのような仕事に繋がるかなど、「何を学ぶか」の理解。

②学校理解
→同じ学問でも大学によって教育目的や授業のあり方、学習環境などは違う。それらを比較し、各大学の特色を理解すること。「どこで学ぶか」の理解。

③自己理解
→自分はなぜそれを学ぶのか、学ぶことでどうなりたいかを改めて考え、自分について理解すること。「なぜ学ぶか」の理解。

「少子化」といったテーマから、様々な学問や仕事についてリサーチを広げていく先ほどのような問いかけは、①の学問理解、職業理解を目的としたものですね。

「子育て支援事業に詳しい研究者は誰?」「少子化で地方自治体は大変だけど、地域創生に着目した大学の取り組みは?」などの問いにすれば、②の学校理解にフォーカスした学びにできるでしょう。
倉部 史記
進路指導アドバイザー。北海道から沖縄まで全国200校の高校で生徒・保護者向けの進路講演を実施。各都道府県の進路指導協議会にて、高校の進路指導担当教員に対する研修も行う。多くの大学で入試設計や中退予防、高大接続についての取り組みを手がける。三重県立看護大学高大接続事業・外部評価委員、文部科学省「大学教育再生加速プログラム(入試改革・高大接続)」ペーパーレフェリーなど、公的実績も多数。
日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。著書に『大学入試改革対応! ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/