高校の先生向け 進路コラム 第6回 <2023年度連載>

第6回 進学先に迷う3年生への助言と、2年生への進路指導のポイント

【複数の大学に合格して迷う生徒。どこに進学すべき?】

一般選抜に挑戦する3年生を見守りつつ、2年生への指導も佳境に。そんな大事な2月の進路指導が今日のテーマです。

 まずは3年生の指導について。突然ですが、もし生徒さんから「2大学から合格をもらったのですが、先生、私はどちらの大学に進学すれば良いと思いますか」なんて相談をされたら、先生方はどう答えますか?

 一般選抜では、志望度がそう変わらない2大学の間で選択に悩む事態もしばしば発生します。なかなか責任重大な質問ですね。

 「自分がより学びたい方にしなさい」と回答される先生も多いと思いますが、ここで大学関係者を代表し、お伝えしたいことが。実は……受験した大学や学部の中身をほぼ知らないまま、進学してくる大学生も実は結構いる(!)のです。

 受験生は受験戦略として模試での偏差値や試験日程、出題範囲なども考慮し、出願先を決めます。秋以降に出願を決めた場合、オープンキャンパスに一度も参加していないケースも。進学した後で「思っていたのと違う」とミスマッチを起こし、望まぬ中退や留年に陥るケースは、特にこのパターンに目立ちます。だからこそ「受かった生徒」に対する先生方の助言は、非常に大きな意味を持つのです。

 保護者は「何となく伝統がある大学の方が就職などで有利なのでは」と、大規模総合大学を進めがちですが、実態はそう単純でもありません。

 一般論として……施設の充実度やキャンパスの広さでは大規模総合大学に分がありますが、大教室での一斉講義が未だに多く、友人づくりが上手でないと孤立しがちといったマスプロ教育の欠点もしばしば見られます。サボろうと思えばいくらでもサボれますし、人数が多いため、学生一人ひとりに対する教職員の目が届かないことも。自分から積極的に周囲の環境を活用できる学生なら良いのですが、そうでない場合、伸び悩むケースもあります。

 むしろキラリと光る単科大学や、様々な授業の工夫で学生の意欲を引き出してくれる中小規模の大学の方が、イキイキ学べる学生も多いのです。自分が成長できると思える大学はどちらなのか、ぜひ本人の納得がいくまで具体的に、徹底的に調べさせてください。

「親がこっちを勧めるから」というのは、進学先決定の動機としてはちょっと不安。「私はこの資格を取りたい。支援はありますか」「私が目指すこの職業に就いた先輩は何人くらいですか」など、「私」を主語にしてリサーチすることが大事です。

 大学案内を改めて熟読することはもちろんですが、可能ならキャンパスに出かけても良い。電話やメールで大学に相談すれば、可能な限りのサポートをしてくれるはずです。

【高2の春に行う進路行事では、ここを伝えたい】

この時期は2年生を対象にした進路講演も盛んですね。私も多くの高校で講師に呼んでいただきます。先生方と相談しつつ、以下のようなことをよくお伝えしています。

①受かるために勉強するのではなく、学ぶために受かるのが大学受験である

 学びたい大学・学部であることよりも、確実に合格できることを優先してしまうケースは多々あります。「指定校推薦の中から進学先を決めさせます」なんて仰る保護者の方も。早めに受かって遊び続けている生徒もいますね。それが進学後の中退に繋がるケースも多いことを、データも交えてご紹介しています(これ、大好評です)。行きたい大学にこだわること、いかなる入試方式を選ぼうと高3の最後まで基礎学力を磨くことが大切です。

②総合型選抜や学校推薦型選抜は、特に本番まで時間がない

 現在は私大入学者の過半数が、学校推薦型および総合型選抜で進学しています。早くに進路が決まるから安心と生徒・保護者は考えがちですが、その分、準備には時間がありません。なぜその大学・学部で学びたいのかという志望理由が問われるため、本気の受験生ほど夏前までに、かなりのリサーチを行っています。春のうちから大学主催のイベントに参加するなど、早めに動くことの重要性をぜひ。

③併願校までしっかり調べよ

 受験する可能性があるすべての大学を、できれば見学してほしいところ。高3夏以降の模試の成績だけで出願校を決めるような進め方は後悔の元です。それに難関大学を目指す方ほど、「ここなら進学しても悔いはない」と思える併願校の合格を得た上で第一志望に臨むもの。受験戦略としても、ミスマッチ予防という点でも、併願校のリサーチをおざなりにすべきではありません。

④現役生は最後の最後まで伸びる

 受験勉強を始めても、英語や数学などの成績が数字に表れるまでには時間がかかります。しかし先生方もご存じの通り、現役生は秋以降に急成長しますね。その成長カーブの存在を、今の段階で伝えておくことは大切と思います。

 いかがでしょう。伝え方に若干の違いはあれど、先生方が普段から生徒さんへ語っていることと、おそらくほぼ同じ内容なのではと思います。外部の講師(それも大学関係者)が、先生方と同じことを強調している。それを生徒さんも受け止めてくれているのかなと、いつも感じております。

 現場で奮闘される先生方のご参考になれる部分があれば幸いです。生徒の皆さんがワクワクに満ちた春を迎えられることを願っております。
倉部 史記
進路指導アドバイザー。北海道から沖縄まで全国200校の高校で生徒・保護者向けの進路講演を実施。各都道府県の進路指導協議会にて、高校の進路指導担当教員に対する研修も行う。多くの大学で入試設計や中退予防、高大接続についての取り組みを手がける。三重県立看護大学高大接続事業・外部評価委員、文部科学省「大学教育再生加速プログラム(入試改革・高大接続)」ペーパーレフェリーなど、公的実績も多数。
日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。著書に『大学入試改革対応! ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/