プロが教える「進路づくり」 第1回 <2024年度連載>

第1回 保護者世代とは大きく変わった! 大学入試の変遷

【推薦入試は「一部の例外」から、むしろ多数派の選択肢に?】

我が子が大学受験を迎えるにあたり、保護者が驚くことの一つは、入試の多様化でしょう。

 かつては「大学入試=筆記試験」でした。熾烈な受験競争が社会で問題視されていた頃、1967年度のデータを見てみましょう。国立大学74校の中で推薦入試を実施していたのはたった4校。私立大学でも256校中、39校という少なさです。募集人数も極めて少数でした。

 その後、少しずつ推薦入試は広がっていきますが、それでも今の高校生の保護者世代には、「推薦なんて一部の例外的な人だけが使うもの」という認識がまだ根強いかもしれませんね。

 現在はどうでしょうか。2023年度入試では、国立大学の実に93.9%が学校推薦型選抜を、78.0%が総合型選抜を実施。私立大学では99.7%が学校推薦型選抜を、92.4%が総合型選抜を行っています。募集人数も大幅に増え、一部の国立大学では入学者の3割近くをこうした入試で受け入れています。公立や私立ではこの割合が過半数を超えている例もしばしば。複数の附属校を持つ私立大学などでは、一般選抜での入学者が3〜4割程度しかいないという例も珍しくありません。

 大学は、多様なメニューの中から自分に合った方法や仕組みを選んで受験する時代となりました。いまや筆記試験中心の一般選抜に絞って受験に臨むことは、使えるチャンスを限定してしまうことを意味します。

 その一般選抜も変化しています。かつては入試で難問、奇問が出題され、それが高校教育にも悪影響を与えているとされた時代もありました。しかし1979年度から始まった共通一次試験や、1990年に始まった大学入試センター試験では、良質な問題を通じて高校での基礎的な学習達成度を測ることが重視されるようになりました。センター試験の得点で合否判定する入試が私立大学の間にも広がったことで、結果的に全国の受験生が遠方の大学に出願できる機会も増加。こうしたメリットは、現在行われている大学入学共通テストにも引き継がれています。

【入試は複雑化したけれど、大事な点はひとつ】

受験の機会は多様化しましたが、それは一方で、大変な複雑化も招いています。各大学が様々な入試で一人ひとりの長所を評価してくれることは、受験生にとってはメリットでしょう。ですが公募推薦や指定校推薦、探究型入試、大学入学共通テスト利用入試など、「選べるメニューが多すぎて、もう何が何だかわからない!」と混乱しているご家庭もあるのではないでしょうか。

 詳しくは次回以降にご説明しますが、同じ総合型選抜という名称でも、そこで求められる学力の姿や、必要な準備は大学ごと、学部・学科ごとにこれまた多様。筆記試験中心の一般選抜ですら、出題科目や問題の傾向には大学によって様々な違いがあります。もはや普通のご家庭がカバーできる範囲を超えてしまっているのでは……と私もしばしば感じます。

 現代の大学受験は、情報戦の様相を呈しています。だからこそ保護者の皆様も、大学入試の変化を理解し、早めに情報を集めておくことをオススメします。本コラムもささやかながら、その一助になれればと思います。

 ひとつポイントをお伝えしますと……大学側からすれば入試とは、究極のところ「進学した後に伸びる学生」を獲得するために実施しているものです。当然と言えば当然ですよね。入試での点数が高かった学生ほど進学後に落ちこぼれているようなら、入試としては本末転倒ということになります。この点は、入試がどれだけ多様化しようと変わりません。

 「この大学、この学部に進学したら、授業を受ける上でどのような学力が必要になるだろうか」「どのような将来意識を持った学生が、この学部でイキイキと学べるだろうか」とご家庭で考えることは、すべての入試に通じる準備になると言えます。

 大学は「進学した後に伸びる」受験生を受け入れたい。産業能率大学経営学部で伸びる人と、他大学の経営学部で伸びる人は、同じではないかもしれません。同じ大学でも経営学部で成長する人と、看護学部で成長する人はきっと違います。このあたりは、模試の偏差値だけでは測りきれません。同じ模試で、同じ偏差値だった2人の受験生が、同じ大学で同じように成長できるとは限らないのです。

 それでも大学側は様々な工夫を凝らし、何とか入試を通じて受験生達の成長可能性、学習可能性を測ろうとしています。最近の大学入試に学力検査や面接、志望理由書など、様々な試験が盛り込まれているのはそのためです。

 ですので各ご家庭にはぜひ、大学合格ではなく、「その後」をゴールに見据えた準備をしていただければと思います。「その大学で私はどのような学びをしたいのか」「この大学での学びを経て、どのような自分になりたいのか」といった対話やリサーチを重ねていくことが、結果的に現在の大学入試に向けた準備にもなるはずです。

 合格するために勉強するのではなく、勉強するために受かるのが大学入試。それを忘れないようにしていただけたらと思います。

(参考)
・「令和5年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要」(文部科学省)(※外部リンク)
倉部 史記
進路指導アドバイザー。北海道から沖縄まで全国200校の高校で生徒・保護者向けの進路講演を実施。各都道府県の進路指導協議会にて、高校の進路指導担当教員に対する研修も行う。多くの大学で入試設計や中退予防、高大接続についての取り組みを手がける。三重県立看護大学高大接続事業・外部評価委員、文部科学省「大学教育再生加速プログラム(入試改革・高大接続)」ペーパーレフェリーなど、公的実績も多数。
日本大学理工学部建築学科卒業、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了。私立大学専任職員、予備校の総合研究所主任研究員などを経て独立。著書に『大学入試改革対応! ミスマッチをなくす進路指導』(ぎょうせい)など。
(ウェブサイト)https://kurabeshiki.com/